これまで、今時分の東京の乾物屋の店先にこんなに種々様々にあしらわれて鰊（にしん）が並んだことがあっただろうか。 身がきにしんの束がそこにあるわきで、小僧と娘さんとが、その身がきにしんにドロリとし...

著者とその影との対話予 まさしく乗るか反（そ）るかの仕事だね、クリストフ。お前は俺（おれ）を全世界と喧嘩（けんか）させるつもりだったのか。クリストフ まあ驚いた様子をするな。最初からお前は、...

木村は云う――。 物を考え、考えあぐんで、椅子に身を託し、或は畳の上に身をなげだして、なお考え続けながら、いつしかうつらうつら仮睡する者は、如何に多くのものを喪失していることでしょう。その頭の中...

こんなことを問題にする必要もないが、二三の新聞雑誌から意見を求められ、一々それに答へる手数を省いたから、ここで一言感想を述べておく。 勲章といふものは、子供か野蛮人でなければよろこばないものと思...

花吹雪（はなふぶき） どこかで見たような顔だね 花を咲かすのが雨なら散らすのも雨。 隅田川（すみだがわ）木母寺（もくぼじ）梅若塚（うめわかづか）の大念仏は十五日で、この日はきまって雨が降る。...

１ ――今回はいよいよ第七番てがらです。 由来、七の数は、七化け、七不思議、七たたりなどと称して、あまり気味のよくないほうに縁が多いようですが、しかし右門のこの七番てがらばかりは、いたって小...

御手紙拝見仕（つかまつ）りました。いろいろと御尽力を感謝申し上げます。編集会議の模様についてはその都度井汲君から伺っています。小倉氏の自然科学史に岡氏が協力する点については岡氏の政治的立場（とい...

＊ 旧暦（きゅうれき）の六月二十四日の晩でした。 北上（きたかみ）川の水は黒の寒天よりももっとなめらかにすべり獅子鼻（ししはな）は微（かす）かな星のあかりの底にまっくろに突（つ）き出ていま...

新劇といふ言葉も、可なり古くなつた。そして、新劇といへば、もう世間で、あああれかと思ふやうになつた。 ところが、われわれの目指してゐるのは、そんなものではない筈である。少くとも、今日、情実を離れ...

第１回 作者 馭者 春子 勝介 壮六（音楽）音楽しばらく続いて、その間にアナウンス。アナウンスやんで間もなく音楽やむ。作者 私は三好十郎でございます。私は以前から長野県――信州の山岳地帯が非常に好きで...