女優・冨士眞奈美が語る、古今東西つれづれ話。今回は、4月3日に心不全で逝去した故・田村正和さんとの若かりしころの思い出を綴る。

女演员富士真奈美讲述古今逸话。本次讲述的是她与4月3日因心力衰竭离世的田村正和年轻时的回忆。

高3のころ、撮影現場でシクシク泣いていた

高三时曾在片场哭泣

正和ちゃんが亡くなられた。多くの方は、古畑任三郎をはじめとした知的でダンディーなたたずまいの田村正和をイメージすると思う。でも、私は、まだデビューしたばかりのころの、身体が弱くて泣き虫で愛くるしい正和ちゃんの姿が忘れられない。

正和离开了我们。很多人对田村正和的印象都是古畑任三郎那样知性花花公子的样子。但最让我难忘的，是他刚出道时，身体弱小又爱哭鼻子的可爱正和。

初めて共演したのは、1962年に公開した、大女優の田中絹代さんが監督をされた『お吟さま』という映画だった。原作は今東光さん。千利休の娘・お吟とキリシタン大名の高山右近の悲恋を描き、お吟さまは大美人の有馬稲子さん、右近を仲代達矢さんが演じた。

我们是在电影《吟公主》中第一次合作的，这部电影的原作作者是今冬光，于1962年上映，导演是当时的大演员田中绢代。电影讲述了千利休之女吟公主和天主教大名高山右近的凄美爱情，其中，饰演有马稻子饰演吟公主这位大美女，右近则由仲代达矢饰演。

千利休を（二代目）中村鴈治郎さん、奥方を高峰三枝子さん、豊臣秀吉を滝沢修さん……錚々（そうそう）たる役者が集う中、私はお吟さまの女中役・宇乃。正和ちゃんはお吟さまの弟役として出演。新人若手はふたりだけ。

当时，中村雁治郎饰演千利休（二代目）、高峰三枝子饰演夫人、泷泽修饰演丰臣秀吉......这些全都是大名鼎鼎的演员，在这里面，我饰演了吟公主的女佣人宇乃，正和则饰演了吟公主的弟弟。我们两个都是新人演员。

お吟さまの女中だから、ずっと出番がある。長時間、現場にいる。その間、弟役である正和ちゃんと時間を過ごすことが多かった。彼は、前年の『永遠の人』で本格デビューを果たしたものの、芸歴はまだ浅く、当時は東京・世田谷の成城学園高校に在学する高校3年生だった。

因为我是吟公主的女佣人，所以一直有镜头，很长时间都会待在片场。当时和饰演弟弟的正和一起度过了很长时间。当时他已经在上一年拍了《永远的人》正式演员出道，但经验尚浅，还在东京世田谷成城学园高中读高三。

撮影場所は京都太秦。彼は、「家に帰りたい。学校に行けない。日数が足りないと受験ができない」と不安がつのり、いつもシクシク泣いていて。私は話し相手になって「大丈夫よ！」なんてなぐさめていた。撮影は半年もかかった。

那部电影是在京都太秦拍的。拍摄过程中他一直不安于“想回家、去不了学校、上学时间不够不能考试”而偷偷哭鼻子，整部电影拍摄了半年的时间，当时我会安慰他“没关系的”。

今だから話せるけど、実は『お吟さま』は製作の裏側がドタバタだった。正和ちゃんが、「家に帰りたい」と嘆いていた気持ち、それもわかるのよね（笑）。

虽然现在才能说出来，但其实当时《吟公主》的拍摄制作挺忙乱的，所以我也很能理解正和“想回家”的心情（笑）。

まず、監督である田中絹代さんに……申し訳ないけれど、監督としての才能に疑問符。もともと田中さんは、小津安二郎さん、溝口健二さん、成瀬巳喜男さんなど名だたる監督に重用された本当の大女優。だからといって、監督としての才覚があるかどうかは別問題。『お吟さま』は、田中さんの6作目にあたるわけだけど、撮影が全然進まない。

首先是导演田中绢代，虽然很失礼，但我对她作为导演的才能抱有疑问。原本田中是一位被小津安二郎、沟口健二、成濑巳喜男等著名导演重用的大女演员。即便如此，她究竟有没有导演的才能也是另一码事。《吟公主》已经是田中的第六部作品，但拍摄进度完全无法推进。

私たちへの演技指導も不確かで自信がなく、振り付けで伝える。「ここで何歩か歩いて、振り返る」という具合に、踊りのようにディレクションなさるんだけど、よくわからないから私も正和ちゃんも困っちゃって。

另外，她对我们的演技指导也十分不确定且没有自信，总是用舞蹈动作来教我们。比如说讲解“这里走几步然后回头”的时候，就会像在跳舞一样指导我们，我和正和听了也摸不着头脑所以很困惑。

「お坊っちゃま、ご立派になられて」

“小少爷，您成长了”

田中さんはベレー帽をかぶってブルゾンを着て、格好は超一流監督だったけど、中村鴈治郎さんや滝沢修さんを前にすると何もおっしゃらない。脚本やセリフの直しが多く、あまりに撮影が進行しないので、（『人間の條件』などを担当した）撮影監督の宮島義勇さんが「うーん、困った」とよく愚痴をこぼしていらした。

田中虽然也带着导演帽穿着夹克服，打扮的像个一流导演，但在中村雁治郎或泷泽修这样的演员面前也不敢多说什么。加上剧本和台词修改过多，拍摄迟迟无法推进，就连摄影导演宫岛义勇（曾拍摄《人间的条件》等作品）都会经常抱怨“真让人头疼”。

おまけに、主役の有馬稲子さんは、萬屋錦之介さんと結婚したばかり。撮影には気分が乗らず、早くお家に帰りたいお気持ち。脚本もお気に召さず、有馬さんの気持ちも十分わかるけれど、撮影もままならなくて、正和ちゃんじゃなくても泣きたくなったわよ。

再加上主演有马稻子刚刚和万屋锦之介结婚，在拍摄上也不怎么上心，一心只想早点回家，加上她本身对这个剧本并不喜爱，所以她的这份心情我也很明白。如此一来，拍摄没有进展，就算不是正和这样的人也会想哭的吧。

かつらを使わず、すべて地毛で結っていたから、現場入りは朝の5時。せっかく早朝から待機していても、ヒロインが来ない！暇を持て余すと、私は髪を結ったまま撮影所でキャッチボールや野球をしていたから、一緒になって正和ちゃんも遊んでいたの。美少年だけど、おとなしくてどこか恥ずかしそうにしている、そんな姿が印象的だった。

另外，这部电影中全部都是用自己的头发做妆发，不会戴假发，所以早上五点就要到片场。好不容易大早上来片场等开拍，女主角却迟迟不来！所以一有空闲我就会保持着妆发在片场玩棒球接发球游戏，正和要在的话就会一起玩。他虽然是个美少年，但很乖还很容易害羞，这一点让我印象深刻。

やっと撮影がアップすると、みんなで京都駅まで正和ちゃんを見送りに。ホームで「受験がんばってねー！」って大声を上げながら手を振ったことを覚えている。

之后，电影拍摄终于杀青，大家把正和送到了京都站，我还记得当时大家在站台上挥着手对他喊“考试加油！”时的场景。

その後、正和ちゃんは本当にハンサムな、素敵な俳優になった。『古畑任三郎』（フジテレビ系）を見るたびに、あのときの弟役の姿を思い出し「お坊っちゃま、ご立派になられて」なんて、テレビの前で思っていたわ。

再过后，正和成长称一位很帅气的实力演员。每次看《古畑任三郎》（富士电视台）的时候就会想起当时饰演吟公主弟弟的他，看着电视就会想“小少爷，您成长了呢”。

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