3.0 日本の「猫」に関する紹介

3.1 日本の「猫」の特徴

顔は鼻筋が通り、耳の毛は短い。全身の毛はそれほど長くない。尾は細長いものと極端に短いものがあるが、細長くても先だけが折れ曲がっているものもある。尾の短いものは尾骨が複雑に折れ曲がっていることが多いが、毛に覆われているために外見上は単純な切り株状に見える。短尾の猫は、世界的には比較的珍しく、日本猫の特徴の1つとなっている。毛並みの美しさには定評があるが、またその色分けも外国人から珍しがられている。白・黒の一色、濃淡帯状の縞模様、白地に黒ぶちや茶ぶち、そして三毛猫と呼ばれる白・茶・黒の三色に色分けされているものなどがいる。縞模様の猫はトラネコと呼ばれ、茶縞のものをチャトラ、こげ茶縞のものをキジトラ、灰色縞のものをサバトラと特に分けて呼ぶ場合もある。また三毛猫とサビ猫はほぼ全てがメスである。

3.2 日本の「猫」の歴史

日本において猫が考古学上の登場は、読売新聞(2008年06月22日)の記事によると、長崎県壱岐市勝本町の弥生時代の遺跡カラカミ遺跡より出土された、紀元前1世紀の大腿骨など12点である。当時の壱岐にヤマネコがいた形跡がないことや現在のイエネコの骨格と酷似しているため断定された。文献に登場するのは、『日本霊異記』に、705年(慶雲2年)に豊前国(福岡県東部)の膳臣広国が、死後、猫に転生し、息子に飼われたとあるのが最初である。
愛玩動物として飼われるようになったのは、『枕草子』や『源氏物語』にも登場する平安時代からとされ、宇多天皇の日記である『寛平御記』(889年〈寛平元年〉)2月6日条には、宇多天皇が父の光孝天皇より譲られた黒猫を飼っていた、という記述がある。奈良時代頃に、経典などをネズミの害から守るためのネコが中国から輸入され、鎌倉時代には金沢文庫が、南宋から輸入したネコによって典籍をネズミから守っていたと伝えられている。『日本釋名』では、ネズミを好むの意でネコの名となったとされ、『本草和名』では、古名を「禰古末(ネコマ)」とすることから、「鼠子(ねこ=ネズミ)待ち」の略であるとも推定される。他の説として「ネコ」は眠りを好むことから「寝子」、また虎に似ていることから「如虎(にょこ)」が語源という解釈もある。このように、蓄えられた穀物や織物用の蚕を喰うネズミを駆除する益獣として古代から農家に親しまれていたとおぼしく、ヘビ、オオカミ、キツネなどとともに、豊穣や富のシンボルとして扱われていた。
ただし日本に伝来してから長きにわたって猫は貴重な愛玩動物扱いであり、鼠害防止の益獣としての使用は限定された。貴重な猫を失わないために首輪につないで飼っている家庭が多かったため、豊臣秀吉はわざわざネコをつなぐことを禁止したという逸話がある。ただしその禁令はかなりの効果があり、鼠害が激減したと言われる。
江戸時代には、本物の猫が貴重であるため、ネズミを駆除するための呪具として、猫絵を描いて養蚕農家に売り歩く者もいた。絵に描かれた猫が古寺で大ネズミに襲われた主人の命を救う『猫寺』は、猫の効用を説く猫絵師などが深く関わって流布した説話であると考えられている。猫の穀物霊としての特質は時代を追って失われ、わずかに『今昔物語』「加賀国の蛇と蜈蚣と争ふ島にいける人 蛇を助けて島に住みし話」における「猫の島」や、猫が人々を病から救う薬師になったと語る『猫薬師』に、その性格が見えるのみである。
日本の平安時代には位階を授けられた猫もいた。『枕草子』第六段「上にさぶらふ御猫」によると、一条天皇と定子は非常な愛猫家で、愛猫に「命婦のおとど」と名付け位階を与えていた。ある日このネコが翁丸というイヌに追いかけられ天皇の懐に逃げ込み、怒った天皇は翁丸に折檻を加えさせた上で島流しにするが、翁丸はボロボロになった姿で再び朝廷に舞い戻ってきて、人々はそのけなげさに涙し、天皇も深く感動した、という話である。猫に位階を与えたのは、従五位下以上でなければ昇殿が許されないためであるとされ、「命婦のおとど」の「命婦」には「五位以上の女官」という意味がある。

3.3 日本の「猫」の伝説

昔から日本では、猫が50に年を経ると尾が分かれ、霊力を身に着けて猫又になると言われている。それを妖怪と捉えたり、家の護り神となると考えたり、解釈はさまざまである。 この「尾が分かれる」という言い伝えがあるのは、猫が非常な老齢に達すると背の皮がむけて尾の方へと垂れ下がり、そのように見えることが元になっている。
猫又に代表されるように、日本において、「3年、または13年飼った古猫は化ける」、あるいは「1貫、もしくは2貫を超すと化ける」などと言われるのは、付喪神になるからと考えられている。

3.4 日本の「猫」の俗信 

まず、日本では、猫に道を横切られると縁起が悪いとも良いとも言われる。黒猫に前を横切られることを不吉として忌むのは、おそらくアメリカから伝わった迷信である。また、黒猫を飼うと商売が巧くいくとも言われ、店舗などを営む自営業者が好んで飼う場合もある。次は、道端などで見かけた猫の死体に対して「かわいそう」といった同情の気持ちを起こすと猫の霊に取り憑かれる、という俗信が日本にはある。それに、猫の埋葬について、沖縄では猫の死骸は地面から離しておかなければ災いを招くという迷信があり、木に首を吊るしたり、ビニール袋に入れて袋ごと吊るす習慣があった。