19 信じられないわ

人物:小百合   東(学生同士)
場面:キャンバスのベンチで東が本を読んでいる

小百合:(背後からそっと忍び寄り、手のひらで東の両目を覆い、大声で)だーれだっ!
東:  うわっ!なんだよ小百合、急にびっくりさせんなよ。心臓に悪い。
小百合:(両手を離しながら)あれえ?どうして分かったのお?
東:  こんがきっぽいことするの、お前しかいないだろ?
小百合:ええーっ!残念。あれ?本読んでたの?漫画じゃないの?
東:  だろ?実は自分でも驚いてんだ。あと、志賀直哉とか井伏鱒二にも凝ってんだ。
小百合:へえー。いったいどういう心境の変化?そっちこと心臓に悪いんじゃない?
東:  うん。よくわかんねーけと、なんかこう、急に文学作品にのめりこんじゃって。
小百合:まあ、信じられないわ。ひょっとして、熱でもあるんじゃないの?病院行こうか?
東:  勝手に一人で行ってろよ。とにかく、これからは文学青年の東と呼んでくれ。
小百合:ひゃー、東君がおかしくなっちゃったあ。そのうち、太陽が西からのぼるわよ。
東:  なんとでも言いな。ほれほれ、がきはあっち行ってろ。読書の邪魔だ。
小百合:あらまあ。こうなったら、あきれたを通り越して感心しちゃうわね。
東:  随分だな。ま、精神年齢が幼稚園児並みのお前には高尚すぎる世界だけどな。

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