亮司が一人街を歩いていると携帯が鳴る。
「亮?」
雪穂の声に驚く亮司。
「あのさ、お金なんだけどさ、
 何をやっているのか、一応教えてほしいっていうか。」
「大丈夫だよ。雪穂には迷惑かけないから。」
「そういう意味じゃなくて。
 心配なんだよ。」
「うん。ごめん、忙しいから。」
亮司は電話を切り、自分の部屋へと向う。

部屋の鍵を開けると榎本が待っていた。
手下たちに暴行を受ける亮司。
「連絡してって頼んだはずだけどなー。
 まあ兄さんの根性はわかったよ。
 俺も嫌いじゃないからよ、そういうの。」
亮司を蹴ったあと、榎本は松浦が閉じこもる部屋のドアを叩き、
話を進めておくよう告げ、出て行った。
榎本の叩いたドアに、手の跡が残っていた。


「前の男に・・・すっからかんにされてね。
 知らない間にほとんど貯金おろされて。
 挙句の果てに、そんなところに置いておくのが悪いんだって
 言われたの。
 何も言い返せなかった。
 松浦さんに会ったのはその頃で・・・
 そんな自分を変えたくてあそこに行ったんだけど、
 いざとなると腰が引けちゃって。」
友彦に身の上を語る奈美江。
「榎本とは?」
「榎本に会ったのは、亮に誘われてから、1ヶ月ぐらい経ったあと。
 私がチンピラに絡まれているときに助けてくれたの。
 今思えば、最初から私に横領させるための芝居だったんだと思うけど。
 あの頃の榎本は本当に優しかった。
 嫌になっちゃうな、私。本当、男の騙されてばっかり・・・。」
そう言い涙ぐむ奈美江。
「俺たちは裏切らないよ。 
 男じゃなくて、仲間だから!」
奈美江は友彦の言葉に微笑み頷いた。

西口奈美江の荒らされた部屋を調べる笹垣たち。
笹垣は部屋に置かれた『風と共に去りぬ』文庫本を見つめる。
「それ99%関係ないですよ。」部下が言う。
「せやな。」
そう言い立ち上がった笹垣は、電話の横のメモに気がつく。
そこには似顔絵が書いてあった。それは亮司の似顔絵だった・・・。

「お前さ、あんなのに逃げまわられたらこっちがやられるに決まってんじゃん。」
松浦が亮司に言う。
「すっとぼけて逃がす方法だってあった!」
「お前奈美江のことそこまで信じてんの?
 警察に捕まってみろよ。俺らのことだってすぐしゃべるぜ。
 俺さ、感謝されてもいいぐらいよ。
 奈美江の始末は無効がやってくれるっていうしさ。
 パチモンのカードで金作ってくれば1千万って話、まとめたんだからね!」
亮司が鋭い視線で松浦を睨む。
「お前がさ、捕まったり、殺されたりしたらさ、
 困る人いるんじゃないのー!?」

部活に遅刻した雪穂を怒鳴りつけるカナエ。
高宮が気にするな、と雪穂に言う。
「篠塚さんに別れ話持ちかけられたらしい。」
雪穂の表情が変わる。
「あれ!?唐沢、もしかしてチャンスとか思ってる?」
「私そこまで怖いもの知らず、身の程知らずでもないですよ。」
そういいつつも、壁の落書きを見つめてしまう雪穂・・・。

学校の帰り、雪穂は大江図書館の前にいた。
「やっぱりまずいよな・・・来ちゃ。」
「あのー、違ってたらごめんなんだけど・・・
 昔も来てなかった?」谷口真文(余 貴美子)が声をかけてきた。
「・・・いえ。」
「ホントに?」
「本当ですよ。」
「そっか。ごめんね。
 いやさー、仲良かった子が、高校卒業したら来なくなっちゃってね、」
「そうなんですか。」
「あなたね、もしかしたら、その子の知り合いなんじゃないかって子に
 似てて、何か知ってたらなーって。」
「心配なんですか?その人のこと。」
「なんかねー。ここだけが居場所みたいな子だったから。」
スタッフに呼ばれ中へ戻っていく谷口。
「良かったら使ってね、うち。」
雪穂は谷口に笑顔で頷いて答えた。

偽造カードを作る亮司。

「あとは、榎本に言われた場所に奈美江さんを逃がすふりをして、 
 園村に女装させて、金を下ろさせればいい。
 それだけのことだ。」

奈美江が持ってきてくれた観葉植物を見つめる亮司・・・。

「死ぬのか・・・。奈美江さん・・・。」
思わず泣きそうになる亮司。

「会ってどうにかなるものではなかったけど、
 無性に雪穂の顔が見たくなった。
 そうすれば、吹っ切れる気がしていたんだ。」

あの橋の上から川を見つめる雪穂。
「何もかも捨てさせたんだよな、私・・・。」
幼い日の亮司の笑顔。
壁の落書き。
「消そう!」

雪穂が部室の落書きを消そうとしていると、カナエの大声が聞こえてきた。
「何!?あんたみたいに失礼な男、見たことない!」
「じゃあ、それでいいじゃん。 
 こんなに失礼な男だしさ。」
篠塚がそう答えると、カナエは無言でその場を立ち去った。

雪穂と目が合う篠塚。
「見ちゃった?」そう言い篠塚が微笑んだ。

篠塚の車の助手席に座る雪穂。
「あの、部長に何言ったんですか?」
「あんまりしつこいからさ、お前のどこが俺にふさわしいか教えてって。 
 あ、ひいた?」
「いえ。中途半端に優しくするよりは、相手にとって親切だと思います。」
「いい友達になれそうだね、俺たち。」篠塚が笑う。
「・・・あの、
 『いざというときにダンスのひとつでもできるヤツが生き残っていく』って
 あれ、いい言葉ですよね。」
「よく見つけたな、あんなの。」
「風と共に去りぬ、好きなんですか?」
「うん。」
「実は私も好きで。原書は読んだことはないんですけど。」
「へー。じゃ、持ってっていいよ。」
「・・・あの、私のこと嫌いですか?」
「え?」
「さっきから、全然話を広げようっていう気がないですよね。」

「さっきから困っててさ、こんな可愛い子隣に乗っけて、
 その子がどうも気がありそうなこと言ってて。
 たまたま俺と似ているだけなのか、
 それとも、気を引こうとしてくれているのか。」
篠塚の言葉にしばし無言で考える雪穂。

「わかった!」
「ん?」
「似てるんだって言ったら、自分に似ている人間には興味がないんだって言う。
 気を引こうってしてるって言ったら、今はそういう気分じゃないんだって言う。
 すごい自信ですね!」
雪穂の言葉に篠塚が笑顔を見せた。

電話ボックスの中、亮司は電話をかけながら、車から降りてきた雪穂の姿に
気付いた。亮司は物陰から様子を伺う。

「どうもありがとうございました。」
「いいえ。
 あ、唐沢。これ、風と共に去りぬ。あげるよ、それ。」
「ちゃんと返しますよ!」
「じゃあ、また会えるね。
 あ、もちろん、返してくれなくても全然構わないよ、俺は。」
「バカにするのもいい加減にしてください。
 私にだって、好きな人くらいいます。」
「そう?」
「おやすみなさい。」
篠塚に背を向けて歩き出す雪穂。篠塚が車を出す。二人を見つめる亮司。
車がエンジンをふかしながらユーターンしていく姿を、雪穂は振り返り
見つめる。物陰に再び隠れた亮司は、雪穂の切ない表情を見てしまった。

「信じられなかった・・・。
 雪穂は・・・恋をしていた。
 俺がドロ水の中を這い回っている間に・・・」

「バカじゃねえの・・・俺・・・。
 何信じてんだよ・・・。」
掌に押し付けられたタバコの火傷跡を見つめながら涙ぐむ亮司は、
悔しさ、哀しさに震えながら掌をぎゅっと握り締めた。

「傷つけてやろうと思った。
 守りたいと思った時と、同じ強さで・・・。」

雪穂の自宅の電話が鳴る。
「はい、唐沢で、」
「俺。ちょっと、頼みたいことがあってさ。」
「何?」
自宅から電話をかける亮司がそっと目を閉じる・・・。

「こんなことやっててさ、怖くなんないのかな、あいつ。」友彦が言う。
「友彦くんだって楽しそうだよ。」と奈美江。
「世間を出し抜くっていうの?
 そういう快感がないわけでもないし。
 まあ暗い顔しててもしょうがないしね。
 だけどさ、この先どうなるんだろうって思ったら、
 たまに眠れなくなることだってあるよ。」
「亮だって怖いと思うよ。
 でもきっと、何かあるんだよ。」
「何かって?」
「信じられる、希望みたいなものかな。」

2組の同じサングラス、靴、そして衣装を準備した亮司・・・。

駅まで奈美江を見送る亮司と友彦。
名古屋のウィークリーマンションの地図を渡す。
「とりあえず1週間はそこにいられるようにしておいたし、
 パスポートは2、3日したら送るから。
 金をおろすとき、出来るだけ顔見られないようにした方がいいからさ。」
亮司はそう言い用意した変装道具を渡す。
「ありがとう。ちゃんと使う。」
「本当にこれから大丈夫?」友彦が聞く。
「がんばる、私。
 せっかく二人に助けてもらった命だもん。本当にありがとう。」
奈美江が二人を抱きしめ涙をこぼした。
亮司の目頭が熱くなる。

奈美江の後姿を見送りながら友彦が言う。
「亮は私にとって、この世で一番信用出来る人だって、
 亮の一言で少しだけ自由な自分になれた気がするって、
 奈美江さん、言ってた。
 何言ったの?」
「別に・・・。
 隙を見せた方が負けなんだって言っただけだよ。」
亮司の言葉に不安を覚える友彦・・・。

亮司は街中、雪穂とすれ違いざまに持っていた手提げ袋を彼女に渡した。

=名古屋=
亮司に手渡された衣装に身を包み、雪穂は奈美江がマンションに入るのを
見届けた後銀行で偽造カードを使う。

部屋で亮司に渡された変装用衣装に着替えた奈美江。
そのときインターフォンが鳴る。
「はい。」
「換気扇の点検でーす。」
奈美江がドアを開け・・・。

「じゃあ、一週間後にグレースホテルで。」
亮司はそう言い電話を切る。
「きつ・・・」亮司はあの橋から空を見上げてそう呟いた。

テレビのニュースが奈美江の死を告げる。
「発見された時西口さんは、頭部と腹部をナイフのようなもので刺された
 状態で既に死亡していました。
 西口さんは、勤務していた大都銀行昭和支店で、不正送金をしていた
 疑いが持たれており、警察は、横領及び殺人の疑いで、会社役員、
 榎本ヒロシ容疑者を取り調べる方針だということです。
 尚、西口さんは、これ以外にも5つの架空口座を使っていて、
 口座から現金を引き出す姿を、防犯カメラが捕らえていました。
 本人が引き出したものと見られていますが、引き出された現金2千万円の
 行方は未だにわかっていません。」

そのニュースの映像に首をかしげる笹垣・・・。

その頃雪穂は亮司と一緒にグレースホテルにいた。
亮司は金を数えている。
「もうちょっと説明してよ。
 結構私、危なくない?これ。
 その榎本っていう人は信用出来るの?
 私たちのこと、警察にしゃべったり・・・」
「西口奈美江がいないと立件は無理だろう。」
「でも・・・」
「信じるから裏切られるんだよ。
 いつ誰が裏切るかなんて想像しても意味ないんだよ。」
「なんか・・・感じ変わったね、亮。」
「そりゃ、これだけ会わなきゃ、いろいろ変わるよ。俺もあなたも。」
「どうすんの?そのお金。」
「ペーパーバックは読み終わった?」
「・・・」
そのとき、雪穂の携帯が鳴る。
「携帯買ったんだ。」
「その方が連絡も取りやすいと思って。」
そう言い別室へ向う雪穂。亮司が追い、雪穂をベッドに押し倒す。
「何すんのよ!」
「許さないからな!
 自分だけ都合よく一抜けなんて・・・。
 なんつー顔してんだよ。
 なんで何も言わないんだよ!!」
「亮には・・・嘘つきたくないから・・・
 今は何も言いたくない。」
「俺しかいないって言ったじゃない。
 死んでたって俺がいるっていうことを忘れないって言ったじゃない!
 人にこんだけさせといてそんな話ありえねーだろ!?」
雪穂から離れる亮司。
「そんなこと・・・私が一番良くわかってるよ!
 だからってどうしろって言うのよ。
 理屈じゃないんだもん。仕方ないじゃない!
 何とかしてよ・・・。」
雪穂は泣きながらそう言い、亮司の胸に飛び込む。
「なんとかしてよ、亮・・・。」

「雨が降ってたことは覚えている。
 固められた土の奥深く、埋められた真実を溶かしだすように。」

質屋殺しの容疑者、母子無理心中の新聞記事を見つめる谷口。

奈美江の部屋にあった似顔絵写真を資料のノートに貼り付ける笹垣。

「明日は晴れるようにと、
 太陽を覆う雲を溶かすように
 雨は降っていた」

ホテルのベッドで結ばれる雪穂と亮司。
「なんかすごく・・・あったかい・・・。
 人の体って、本当はすごく温かいものなんだね。」
雪穂は亮司の胸で幸せそうに微笑んだ。

「なあ、雪穂・・・
 あの日のあなたは、とてもとても綺麗だったんだ・・・。
 だけど・・・
 あの日も雨が降っていたんだ・・・
 雨に洗われ溶け出した、俺たちの罪と罰・・・」