『さよならの光』

1998年12月。
川辺でハサミを見つめながら
「もう一回、太陽の下、亮君と歩くんだよ。」
そう言った雪穂の言葉を思う亮司(山田孝之)。

その頃菊池(田中圭)は笹垣(武田鉄矢)ら刑事に、
亮司が自分を陥れる為に暴行事件を仕組んだのではと訴える。
「とにかく俺はあいつにはめられたんだよ!!」
笹垣の表情が険しくなる。

2006年11月11日と時効の日にちが書き込まれた、
少年と少女が手をつなぐ切り絵を見つめ、爪を噛む雪穂(綾瀬はるか)。

藤村都子(倉沢桃子)の第一発見者、唐沢雪穂が西本雪穂であることに
ほぼ間違いない、とたどり着く笹垣。
「唐沢雪穂と桐原亮司が同じ事件に絡んでるなんて、
 こんなアホな偶然、あるわけない。」

7年前の事件の第一発見者、菊池の「全然開かなかった気がする」という言葉。
「お前ら、逃がさねーぞ。」笹垣が呟く。

「幼い頃、父を殺し、母を殺した俺たちは、
 過去の事件を蒸し返そうとする人間の口を塞ぎ、
 時効の日まで、共に生き延びることを決めた。
 だけど、それまでの8年間、俺は自分がそれまでの間、
 どこで何をしているのか、全くイメージがわかなかった。」

図書館。
机に顔をつけ、ぼーっとする亮司。
「あんた来年からどうすんの?大学?就職?」
谷口真文(余 貴美子)が同じ姿勢をとり亮司に聞く。
「どうしましょう・・・。」
「何かやりたいことはないの?なりたいものとかさ。
 じゃあ小さい頃の夢は?」
「・・・海賊。・・・すみません。」

都子を送っていく雪穂と江利子(大塚ちひろ)。
「ごめんね。毎日毎日送ってもらっちゃって。
 一人だと、怖くて。」
「そんなこと全然気にしなくていいよ、ね?」
江利子が雪穂に言う。
「・・うん。」
次の瞬間、雪穂の動きが止る。江利子の家から笹垣が見つめていたのだ。

亮司の仲間が園村友彦(小出恵介)を連れて来る。
「何やるかわかってんの?」亮司が聞く。
「わかってるって!男女逆のば・・・」
「バイトって、言ってね。」

そのバイトとは、亮司が松浦(渡部篤郎)に半ば脅されて始めた、
女性相手の売春だった。
客の一人の女性は友彦に「暗い」と言われ、部屋を飛び出していく。
亮司は彼女が忘れていった名刺入れ中に、
『大都銀行 主任・西口奈美江』という名刺が入っていた。

「なあ、雪穂。
 あの頃の俺は、何一つわかっちゃいなかったよな。
 これからの自分に、どんな明日が待ってるかなんて。
 あなたがどんな思いで今日まで生きてきたかなんて、
 これっぽっちもわかっちゃいなかった。」

笹垣の姿に不安でいっぱいになる雪穂は、亮司の元へ駆け込んだ。
「昔のアリバイをネタに、松浦って人に売春を強要されているっていう
 解釈でいいのかな?」雪穂が問う。
「怒ってる・・・?」
ため息をつき雪穂が言う。
「亮くん。藤村都子の写真ってまだある?頂戴。」
「状況が全く読めないんだけど。」
「笹垣が、藤村都子の事件を立件しようとしているの。
 被害届け出させて、7年前の事件まで蒸し返すつもりなんだと思う。
 だから、これは、私が持っていたほうが動きやすいかなと思って。」
「動きやすいって、又何かするの?」
「だって、何とかしないと捕まるでしょ!」
「それじゃまたこの間みたいなこと・・・。
 ほら、罪に罪重ねるっていうのもね。
 出来れば穏やかに生きたいじゃない、時効まで。
 出来るだけ、何事もなく・・・。」
「いいよ。じゃあ、私がなんとかする。
 ごめんね。やりたくもないことさせて。」
険しい表情でそう言い放ち、部屋を出ていこうとする雪穂。
「そんな怒ること?」
「ほっといたら何とかなるなんて、よくそんな自分に都合のいいことばかり
 考えられるわね。」
「だって昔だって何とか収まって、それから7年は何もなかったわけだしさ。」
「・・・亮君にとっては、そういう7年だったんだろうね。
 とにかく、笹垣がいつここに来てもおかしくないいんだから、
 それだけは自覚して下さい!
 あなたがコケたら、私も終りなんで。」
そう言い、部屋を出ていった。

帰り道、幼い子供が泥酔する父親を連れ帰る姿に、昔の自分を重ねる雪穂。

笹垣が仕事帰りの弥生子(麻生祐未)を待っていた。
弥生子は、亮司はここにはほとんど帰って来ないと教える。
息子はどこに、と聞く笹垣に、「こっちが聞きたい」と笑う弥生子。
部屋に飾られた帆船の切り絵。
「これ、まだあったんか。」
「まあね。」
「息子、なんで家出してる?」
「わかるでしょ。それぐらい。」
隣の部屋で松浦が寝ている。
「よいしょと。」
笹垣はおもむろに箱を開け、昔の写真を勝手に見始める。

松浦に仕事を辞めたいと訴える亮司。
「またかよ。」松浦は取り合わない。
「笹垣がまた嗅ぎまわってるんだって。
 松浦さんの小遣い稼ぎの為にパクられたくないよ。」
松浦が亮司を押さえつけ不気味に笑う。
「そういうことはさ、お前が決めるんじゃねーの!
 俺が決めるんだ!
 大体さ、俺に説教垂れる前にやることあるんじゃないの?
 どこの世界にさ、凶器持ち歩いてる犯人がいるんだよ。
 もしさ、俺がお前の共犯だったら、怖くてやってらんないよ。」

「馬鹿げた感傷だとわかっていた。
 証拠を捨てない犯人なんて、愚かしいにもほどがある。
 だけど、俺はまだ人間でいたかった。
 犯した罪の跡形に、痛みを感じていたかったんだ。
 せめて・・・。
 一つずつ、良心を捨てていくような気がした。」

当時の証拠品、カメラなどを別々の場所から川に放り込む亮司。
そして最後に、銀のハサミを見つめ・・・。

チャペル。
都子は、被害届けを出したくはないが、
刑事に他の事件につながるかもと言われ迷っていると、
雪穂と江利子に打ち明ける。
「他の事件って、何かって聞いた?」雪穂が尋ねる。
「教えてもらえなかったんだけど。
 犯人は、罪に罪を重ねている可能性があるって。
 社会のためにも、犯人のためにも、捕まえなきゃいけないんだって。」
雪穂の険しい表情に江利子が気付き声をかける。
「優しい人なんだろうなと思って。その刑事さん。」
雪穂はそう微笑んだあと、また険しい表情で十字架を見つめた。

マンションの階段を歩く亮司は、聞き覚えのある声に驚愕する。
笹垣が住民に亮司のことを聞き回っているようだった。
「ありがとう。」学生たちに笑顔で礼を言い、部屋のあるほうへ顔を向ける。
笹垣の顔からすっと笑みが消え、険しい表情で見上げる。
その恐ろしい表情と目が合う亮司。
「桐原・・・。」
亮司は立ちはだかる笹垣を振り切り、逃げ出した。
「桐原・・・。」いっそう険しい表情で笹垣が呟く。
その様子を見ていた松浦は・・・。

管理人に部屋に入れてもらった笹垣は、その部屋の借主は松浦で、
その部屋で売春していたという噂があると聞く。
きちんと並べられた『風と共に去りぬ』5巻。
その一冊を手に取り、笹垣は雪穂も同じ本を読んでいたことを思い出す。

「ちょっと酷いじゃないですかー。善良な小市民の部屋にー。」
戻ってきた松浦が言う。
聞きたいことが山ほどある、と笹垣が笑う。

亮司から雪穂に電話が入る。
「笹垣が来て、俺、今逃げて・・・」
外の公衆電話からかけ直す雪穂。電話が『船のベッドハウス』の
公衆電話につながる。
「逃げたってどういうこと!?」
「え?」
「何かあるって言ってるようなもんでしょ!」
「ごめん。」
「ハサミは?まさか、持ってってないよね。」
「持ってる。
 だけど、松浦さんが。
 あの部屋松浦さんので、時々来るんだよ。
 もし笹垣が接触していたら・・・」
「すぐ松浦に連絡取って!」
「話されてたら、どうする?」
「何でもかんでも、私に聞かないでよ!」
「・・・」
「ごめん。明日、同じくらいに連絡くれるかな。」
雪穂はそう言い電話を切った。

「こんなとこで・・・」
雪穂が悔しそうに公衆電話を叩いた。

都子は自分のロッカーに、封筒に入れられたあの写真を見つける。
「どうしたの?」雪穂が声をかけると、都子は雪穂に抱きついて叫ぶ。
「帰る!私帰る!」

「藤村さん、私ね、やっぱり被害届け出さない方がいいと思うんだ。
 私の話、聞いてくれる?」

雪穂が都子を自宅に送り届ける。
「実は・・・」
都子の母親に説明しようとした時、雪穂は背後に笹垣がいることに気付く。
雪穂は笹垣に会釈をし、その場を去る。
「ありがとね。唐沢さん。」
都子の母親の言葉に笹垣の顔色が変わる。
「あの、この間の件、」
「被害届けは、出しません。
 捕まったとしても、すぐに出て来れるんでしょう?
 逆恨みされても私のこと守ってくれないじゃない!警察なんて。」
興奮気味に叫び出す都子。
母親が都子を家の中に連れていくと、笹垣は雪穂の姿を追う。

「おい。あの子に何したんや!?」
「え!?何ですか?」
「とぼけとってもあかんぞ!
 お前が、何かやったろ、あの子に。」
「・・・笹垣さんですか?」
「大きくなったのう、西本雪穂!」
「お元気そうで。」雪穂はそう言い人懐っこい笑顔を見せる。
「桐原亮司は元気にしとんのか?」
「・・・キリハラって、あの、被害者の方の?」
「そこの息子がな、悪いことしとってな、
 あれ、もうすぐパクられるで。」
「へぇ・・・。」
「スカーレットとしてはなんも興味ないんか?」
「・・・興味も何も、知らない方なんで。」
「お前と、いや、君と、同じ本すきやったみたいやで。」
「・・・皮肉な話ですね。
 被害者の息子さんと、加害者の娘。
 同じ本を好きだったなんて・・・。」
雪穂の落ち着いた様子に笹垣は驚く。
雪穂は学校があるから、とその場を去った。
「この親鸞は父母孝養のため、一返にても念仏候はず。」
(歎異抄五条)

「笹垣には何も言ってねーよ。
 別にお前のこと売ったって、金にも何にもなんねーしね。
 で、どうすんだよ?」と松浦。
「あのおじさんさ、悪いやつ刺して逃げたんだって。
 毎日毎日、明日が時効だから娘が迎えにくるって、
 もう5年ここにいるんだってさ。
 俺もあんなになるのかな。」と亮司。
「お前さ、うっとうしいんだよ!
 お前人殺しなんだよ。しかも、自首もしないようなヤツなんだよ。 
 いつまでも善人面してないで、認めな!」
「善人面・・・」
「俺は本当はそんなヤツじゃないんだって、自分でそう
 認めたくないだけなんだろ?
 あれは不幸な事故だったって思いたいだけなんだろ?
 もう、自首しろ。もしくは、自殺しろ、な。」

その時、松浦の携帯に友彦から亮司宛に電話が入る。
「死んじゃったんだよ、今。ハナオケイコさん。」

客の夫が暴力団員と知り、怯える友彦は自首すると言いだす。
「垂れ込んでみろ!別の筋から串刺しだぞ、お前!」
松浦が友彦の頬を叩きながら脅す。
そして彼女の携帯仁尾登録された自分の番号を消去し、指紋をふき取る。
「お前の責任だからな!何とかしといてよ。」
松浦はそう言い二人を残し、立ち去った。
「桐原・・・」
「何とかしてやるから帰れ。」
「帰ってどうしたらいいの?」
「なんとかするから帰れ!」
友彦は亮司の言うとおり、その場を逃げるように去った。

刺青の入った遺体を見つめたあと、亮司は目を閉じ考え始めた