激しい地吹雪のため、雪原は雪煙で覆われていたという。しかし、雪煙は地面から吹き上げられたものだったので、風がやむとびっくりするほど遠くが見えることがあった。突然現れた山容を認め、神田大尉が言った。「見ろ、あれは八甲田山の前だ」(新田次郎『八甲田山死の彷徨』新潮社)。

据说当时大风卷起猛烈暴风雪,雪地笼罩在漫天雪雾中。可是,雪雾是从地面被大风吹起来的,大风一停,有时就会令人吃惊地看到远方弥漫的雪雾。神田大尉看成了突然出现的高山,对士兵说:“看!那是八甲田山的前山”。(新田次郎《八甲田山 死神在徘徊》新潮社)

★【地吹雪 じ-ふぶき】地上に積もった雪が強風のため吹き上げられる現象。
★【山容 さん‐よう】山のかたち。山のすがた。
★【岳・嶽 たけ】(ダケとも。「たか(高)」と同源) 高くて大きい山。高山。山岳。

青森市の八甲田山系の前岳で、山スキーツアーの一行が雪崩に遭い、死傷者がでた。小説が扱った雪中行軍の時ほどの悪天候ではなかったようだが、冬山が牙をむいた(露出獠牙)時の怖さを見せつけた。

雪山滑雪旅行团一行人在青森市八甲田山脉的前山遭遇雪崩,已有伤亡数字报告。虽不是小说中描写的那般恶劣天气下的雪地行军,但是冬季雪山还是让我们领教了它露出獠牙时的恐怖。

★【ツアー】tour   多く他の外来語の下に付いて用いられる。
(1)周遊旅行。団体旅行。「―を組む」「ヨーロッパ-―」
(2)小旅行。遠出。「スキー-―」「サイクリング-―」
★【牙(きば)をむく  】相手に敵意を抱いて立ち向う。


ツアーのガイドのリーダーは、今年の冬は暖かいので雪崩の危険はあると思い、普段通るルートを変更していたという。樹林帯を通れば大丈夫だと思っていたが、「結果的に起きてしまった」と記者会見で言って絶句し、机に突っ伏したという。山のベテランにも計り知れない「白魔」の振る舞いだったのか。

据说滑雪旅行团领队作为向导,当时想到今年冬季温暖,有发生雪崩危险,就改变了旅行路线。他以为从树林地区通过就会安全,“没想到担心的结果还是发生了……”。在记者采访时,领队说到这里就哽咽了,趴到了桌子上。即便是熟悉山性的人也无法预测“白魔”何时发威的呀!

★【絶句 ぜっく】話の途中で言葉に詰まること。演劇の台詞せりふや演説・誦読などで、中途でつかえて言句の出ないこと。「突然の知らせに―する」
★【ベテラン】 veteran  ある事柄について豊富な経験をもち,優れた技術を示す人。老練者。ふるつわもの。

今回の雪崩は、青森地方気象台が全県に雪崩注意報を出してから10分後ぐらいに起きたのではないかという。気象情報にも、可能な限り、注意が必要だ。

据说此次雪崩是在青森地方气象台向全县发出雪崩预警大约10分钟后发生的。我们还是有必要尽可能地注意气象预报。

小説の題材となった青森歩兵第五連隊の行軍は明治35年、1902年の1月下旬に行われ、210人のうち199人が死亡した。時期は今とあまり違わない。ツアー客が滑り降りていたコースの先には、連隊遭難の記念像が立つという。

小说主人公青森步兵5连是明治35年、1902年1月下旬开始行军的。210人中,最后有199人死亡。死亡时间大致就现在这个时候。据说就在游客滑雪路线的前方立着连队遇难纪念像。

雪の行軍がスキーツアーに変わるまでの約100年は、人間にとっては長い年月だった。しかし、自然にとっては、いわば一瞬のことなのだろう。変わらない悠久の営みへの畏(おそ)れを、忘れないようにしたい。

从雪中行军变成滑雪旅行的100多年,对于人来说是个漫长的岁月。可对于大自然却只是弹指一瞬。希望我们不要忘记:对永恒不变的大自然要保持警畏之心。

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