作家であり、詩人であり、教育者でもあった宮沢賢治。明治、大正、昭和の激動の時代を生きた
彼は多くの作品を残し、38歳の若さでこの世を去りました。このサイトでは、初稿が書かれてから
80年近く経った今もいまだに多くの人に愛され、読み続けてられている童話「銀河鉄道の夜」に
スポットを当て、賢治の内面を探りながら読み解いていきます。どうぞお楽しみ下さい。

川の向う岸が俄(にわ)かに赤くなりました。

对岸河上突然一片通红。

楊(やなぎ)の木や何かもまっ黒にすかし出され見えない天の川の波もときどきちらちら針のように赤く光りました。まったく向う岸の野原に大きなまっ赤な火が燃されその黒いけむりは高く桔梗(ききょう)いろのつめたそうな天をも焦(こ)がしそうでした。ルビーよりも赤くすきとおりリチウムよりもうつくしく酔(よ)ったようになってその火は燃えているのでした。

杨树等树木一片漆黑。本来望不见的天河波澜,此时也隐约泛出细细的红光。对岸的原野上似乎燃起熊熊火焰。滚滚浓烟像要将高高的黛蓝色冷酷的天空烧焦。那火焰比红宝石还要鲜艳、明亮,比合金玻璃更加绚丽多彩。

「あれは何の火だろう。あんな赤く光る火は何を燃やせばできるんだろう。」ジョバンニが云(い)いました。

“那是什么火光?烧什么东西火光才能如此迷人?”焦班尼说。

「蝎(さそり)の火だな。」カムパネルラが又(また)地図と首っ引きして答えました。

“那是天蝎火光。”柯贝内拉又对着地图查看。

「あら、蝎の火のことならあたし知ってるわ。」

“啊,是天蝎火光呀。那我知道。”

「蝎の火ってなんだい。」ジョバンニがききました。

“天蝎火光是怎么回事?”焦班尼问。

「蝎がやけて死んだのよ。その火がいまでも燃えてるってあたし何べんもお父さんから聴いたわ。」

“天蝎被烧死了。据传那大火一直燃烧到现在。爸爸讲过好几次。”

「蝎って、虫だろう。」

“天蝎是虫子吗?”

「ええ、蝎は虫よ。だけどいい虫だわ。」

“是的,天蝎是虫子,是好虫子。”

「蝎いい虫じゃないよ。僕博物館でアルコールにつけてあるの見た。尾にこんなかぎがあってそれで螫(さ)されると死ぬって先生が云ったよ。」

“天蝎不是好虫子。我在博物馆看过,泡在酒精里。尾巴上有个大夹子,老师说过,如果谁被它蜇了就会死的。”

「そうよ。だけどいい虫だわ、お父さん斯(こ)う云ったのよ。むかしのバルドラの野原に一ぴきの蝎がいて小さな虫やなんか殺してたべて生きていたんですって。するとある日いたちに見附(みつ)かって食べられそうになったんですって。さそりは一生けん命遁(に)げて遁げたけどとうとういたちに押(おさ)えられそうになったわ、そのときいきなり前に井戸があってその中に落ちてしまったわ、もうどうしてもあがられないでさそりは溺(おぼ)れはじめたのよ。そのときさそりは斯う云ってお祈(いの)りしたというの、ああ、わたしはいままでいくつのものの命をとったかわからない、そしてその私がこんどいたちにとられようとしたときはあんなに一生けん命にげた。それでもとうとうこんなになってしまった。ああなんにもあてにならない。どうしてわたしはわたしのからだをだまっていたちに呉(く)れてやらなかったろう。そしたらいたちも一日生きのびたろうに。どうか神さま。私の心をごらん下さい。こんなにむなしく命をすてずどうかこの次にはまことのみんなの幸(さいわい)のために私のからだをおつかいく
ださい。って云ったというの。そしたらいつか蝎はじぶんのからだがまっ赤なうつくしい火になって燃えてよるのやみを照らしているのを見たって。いまでも燃えてるってお父さん仰(おっしゃ)ったわ。ほんとうにあの火それだわ。」

“那当然。那它也是好虫子,爸爸说的。从前,在巴尔都拉原野,有一只小天蝎,专门吃小虫子什么的。一天,它遇上黄鼠狼,险些被吃掉。天蝎不顾一切地逃命。眼看就要被黄鼠狼抓住,不小心,天蝎掉进一口水井里,怎么也爬不上来。天蝎眼看就要被水淹死,它就这样祷告说:‘啊,我以前不知吞食了多少生命,如今当黄鼠狼捕捉我时,我是那么狼狈地奔逃。但终于还是落到这一地步。啊,天哪,我已经没有救了。我为什么不乖乖地把自己的肉体让黄鼠狼吃掉呢?它也会为此多活一日。上帝呀,请体察我的心意。不要这么白白地送命,为了使大家获得真正的幸福,就请用我的身体吧。’不觉之间,天蝎望见自己的身体燃烧起通红的火焰,照亮了四周的黑暗。爸爸曾经说过,这火至今还在燃烧。没错,那边的火焰就是天蝎火光。”

「そうだ。見たまえ。そこらの三角標はちょうどさそりの形にならんでいるよ。」

“是的,看呀!那边的三角标,不正是一只天蝎的形状吗?”

ジョバンニはまったくその大きな火の向うに三つの三角標がちょうどさそりの腕(うで)のようにこっちに五つの三角標がさそりの尾やかぎのようにならんでいるのを見ました。そしてほんとうにそのまっ赤なうつくしいさそりの火は音なくあかるくあかるく燃えたのです。

焦班尼也觉得火焰对面的三个三角标恰似天蝎的臂膀,这边的五个三角标犹如天蝎尾巴上的钳形爪。而那团鲜红、明亮的天蝎火光果真在无声地燃烧,光闪透明。

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