女が嘘をつくとき [著]リュドミラ・ウリツカヤ

女人撒谎的时候 [著] ЛюдмилаУлицкая(俄语)

[評者]松永美穂(早稲田大学教授・ドイツ文学)[掲載]2012年07月15日 [ジャンル]文芸

【评论】松永美惠(早稻田大学教授·德国文学)【刊登】2012年7月15日 【类型】文艺

■変わるロシア 嘘の中に真実

奇特的俄国  谎言中的真实

虚言癖のある人に、わたしも出会ってしまったことがある。いろいろと約束をして予定を立てた後、相手がいい加減なことを言っていただけとわかったときの失望と脱力感!自分の言葉に責任をとらない人とは二度と会いたくないと思ったけれど、根も葉もないことを言った相手の気持ちまでは推し量れなかった。

我遇见过说谎精。在作下了各种约定之后,了解到对方只是敷衍时的那种失望与无力感!虽不想再见连自己说的话都不能负责的人,但其实自己并没能体量到对方说毫无根据的话时的心情。

本書には、ありもしない身の上話や架空の家族のことを並べ立てる女性が次々に登場する。タイトルに「嘘」とあるから、読者としても、あ、これはもしかして嘘なのかな、とちょっと予想できてしまうのだけれど、嘘とわかってもわからなくても、彼女たちの話すことはすごく面白い。特に冒頭の短編に出てくる女性の話は滅茶苦茶(めちゃくちゃ)ドラマチックで、呆(あき)れるほど悲劇的だ。

本书里,虚构身世和家庭的女子逐一登场,因为主题便是“谎言”。读者虽会预想这可能是假的,但无论读者知不知道,她们所叙述的内容都非常有意思,尤其是开头短篇里出现的女子,她的故事荒谬绝伦、极具戏剧性,却最终上演一场令人目瞪口呆的悲剧。

収められている六つの短編すべてに、ジェーニャという女性が登場する。短編の順序に従ってジェーニャの年齢が上がっていき、家庭環境も変わる。ロシアという国そのものも、共産主義時代の停滞を経て民主化の時代を迎え、さらにソ連が崩壊して「新ロシア」へと変化していく。

收录的六个短篇里都有一位名叫Jenya的女子出现。随着短篇的顺序,Jenya慢慢长大,家庭环境也有所变化。这是俄罗斯正处在经历共产主义停滞、迎来民主化的时代,由于苏联解体,正向着“新俄罗斯”变更。

まじめで同情心の強いジェーニャは、嘘に対して潔癖な反応を示す。ただ、本書を読んでいると、嘘といっても道徳的に弾劾(だんがい)されるべきものばかりではなく、深い思いやりや、ひそかな願望の表現でもあることがわかってくる。嘘をつく女性が、だんだん可愛く見えてきてしまうのだ。

认真、有着很强同情心的Jenya,对待谎言的反应有些洁癖。但读了这本书,你会意识到“谎言”并不仅仅是道德方面的谴责,深入思索后会发现,它还是潜在愿望的表现。说谎的女子,也会渐渐觉得可爱起来。

どの短編もすばらしかったが、晩年にこっそり嘘をついた老教授の話はなんだか身につまされた。いつかわたしも思い切り嘘をついて、存在しない本の書評でも書いてみたい。しかし考えてみればそんなことはすべて、すでに作家たちがやっているのだった。

每一则短篇都非常棒,在晚年偷偷撒谎的老教授的故事,总让人觉得很感伤。不知哪一天我也会毫不犹豫地撒谎,对不存在的书写写书评。但想想看,其实已经有很多作家在做这样的事情了。

小説は第一級の嘘。でもそのなかに、なんとたくさんの真実が隠されていることだろう。本書の作者は嘘の名人であると同時に、当代屈指の人生の書き手だ。

小说是第一流的谎言,其中却隐藏着无数的真实。本书的作者不仅是说谎的名人,也是当代首屈一指的人生文学家。

◇沼野恭子訳、新潮社・1890円/43年生まれ。ロシアの作家。

沼野恭子译  新潮社·1890日元/43年出生,俄罗斯作家。

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