貧乏(びんぼう) 先祖(せんぞ) 子孫(しそん)
むかしむかし、あるところに、とてもお金持ちの家がありました。 「もう、お金なんかいらない」 と、いつも言っているのに、どうしたことか、お金はどんどんたまるばかりです。  そこで貧しい人たちに、お金を貸してあげることにしました。  そのとたん、お金持ちの家に大勢の人が押しかけてきて、ご飯を食べるひまもありません。  しばらくたつと、今度は借りたお金を返しにくる人も増えてきて、もう大変な忙しさです。 (弱ったなあ。このままじゃ、ゆっくり眠る事も出来ん。どうしたものか?)  お金持ちは、色々と考えて、 (そうか、お金がたまりすぎるから、こんな事になってしまったのだ。のんびり暮らすには、貧乏になればいいんだ) と、気がつきました。  さっそくお金持ちは家の表に大きな張り紙をして、次のように書きました。 《おかげさまで、お金はほとんどなくなりました。だから今日限りでお金を貸すのをやめることにします。お金を借りた人は、もう返さなくてもけっこうです》  張り紙のおかげで家へ来る人もいなくなり、やっと静かになりました。 (さあ、これで貧乏になれるぞ)  ところが元々お金持ちの家だったので、立派な道具やこっとう品がたくさんあり、売ればたちまちお金がたまってしまいます。  そこでこれも近所の人にただでやり、屋敷の庭に生えている見事な植木も全部切り倒して、たき木にしてしまいました。  ついでに庭のあちこちにある、大きな石まで取り除く事にしました。 「なにも、そこまでしなくても」  近所の人が言いましたが、お金持ちは、 「いや、何としても貧乏になり、これからはのんびり暮らすのだ」 と、言って、大勢の人を呼んで石を運び出しました。  すると取り除いた石のあとから、大きなつぼがいくつも出てきました。 「おや? なんだろう?」  おどろいてふたを取ると、どのつぼにも金ぴかの小判がつまっています。  どうやらこの家の先祖が埋めておいた物らしく、つぼのふたの裏には、 《これを子孫に残す。大切に使ってくれ》 と、書いてありました。  これには、さすがのお金持ちもまいりました。 「なんて事だ。ご先祖さまが大切に使ってくれと書いてあるので、人にやるわけにもいかないし、・・・まったく、貧乏したいと思っているのにこんな大金が出てくるなんて、わしはよっぽど運の悪い人間だ」 と、何度もためいきをついたという事です。