关键词:節句(せっく)
娘もおどろいて、その晩やって来た若い侍に言いました。 「実は最近、とても体がだるいのです。  元気をつけるために、裏山の松の木に巣をつくっているワシの卵を取って来て食べさせてくださいな」 「よしよし、そんな事はたやすい事よ」  次の日、若い侍は裏山へ行って、ワシの巣がある高い木に登っていきましたが、その時、いつの間にか若い侍はヘビの姿になっていたのです。  そして木をよじ登って巣の中にある卵を口にくわえたとたん、親ワシが戻って来ました。  親ワシは鋭い口ばしで、大事な卵をくわえたヘビを何度も突きました。  そしてヘビは頭を食いちぎられ、血だらけになって木から落ちていきました。  その頃、あの易者がまたおばあさんの前に現われると、おばあさんに頭を下げて言いました。 「実はわたしは、いつぞや田んぼのあぜ道で命を救われたカエルなのです。  娘さんの体には、まだヘビの毒が残っております。  これからは毎年、三月三日の節句にお酒の中に桃の花びらを浮かべてお飲みください。  そうすればヘビの毒ばかりではなく、体にたまったどんな毒もみんな消えて、きれいになりますから」  そう言うと目の前の易者の姿はたちまち消えてしまい、一匹のカエルが庭先の草むらの中へピョンピョンと飛んでいったのです。  桃の節句で、お酒の中に桃の花びらを浮かべて飲む様になったのは、この時からだという事です。