維大正十三年三月丁亥、故原教授の僚友門人等相謀り、席を妙滿の精舍に設け、僧に請ひ經を誦し、敬みて君の靈を祭る。嗟光陰の逝き易きは、駒の隙を過ぎるに譬ふ、君が館を捐てしより已に二月を經たり。講帷の舊物、卷帙空しく存し、蒿里の新歌、幽明長へに隔たりぬ、嗚呼哀哉。古人言へることあり、上士は生死を齊しくし、下士は生を愛し死を惡んで之に迷ふと。予君が平生を知り屡々死生の説を聞く。又其初疾より以て命終に迄るまで、意氣精爽、平日に異ならず、賓客を顧瞻して、談論風發せしを見て、必ずしも此間に戚々たるものに非らざりしを知る。況んや歳を享けて五旬を踰ゆ、以て夭折となすべからず、官を累ねて三位に至る、以て幽滯となすべからず。然り而して予が君を哭し君を惜みて已む能はざる所以のものは、君が學界に效せし偉績は衆目の均しく觀る所なれども、其名山の業に至りては猶之を將來に待つものあり。君が教を大學に掌り講席を主持する、其人材を造就するもの葢し鮮なしとせず、然れども門下の桃李猶其栽培に頼るものあり。若夫れ思うて君の私に及べば、君が往年鼓盆の興ありしより、門庭寂寞、中饋人なく、父子相依り、懽少なくして苦多く、晨米暮鹽、君の料理に歸し、弱息穉子、君が撫育を待てり。君が廬を過ぐるごとに、未だ嘗て其不幸を悲まずんばあらざりき。今や君逝けり、存するもの誰れをか恃まむ。嗚呼哀哉。僕君と交ること久しく、君を知ること尤熟す。而して性情氣體の相反すること、亦未だ我兩人に如くものあらず。葢し君の性は駿敏、僕は則ち儒緩、君の體は彊健、僕は即ち羸弱、窃に以爲らく、一朝君に先だち、化して異物とならば、身後の事、應さに君の經紀に頼るべしと。孰れか謂はむ、駿敏なるもの逝いて儒緩なるもの存し、彊健なるもの折れて、羸弱なるもの全からむとは。豈に喬木挺生して風に摧かれ易く、女蘿柔を以て乃ち其根に安ずるの類か。爰に身世を維ひ、以て哀志を申べむとすれば、情結ぼれ哀み切にして、斷絶すべからず。嗟僕の言此に止まる、君聞くか、其れ聞かざるか。嗚呼哀哉、尚くは饗けよ。
(大正十三年、藝文第拾五年第四號)

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