洋介の遺体が発見される。
刑事·笹垣(武田鉄矢)は部下から状況の説明を受ける。
第一発見者は、ビルで遊んでいた少年·菊地。
ダクトを伝って遊んでいたところ遺体を発見。
ドアの前に積まれたブロックをどかし、ドアを開けたらしい。
致命傷となったのは胸への一突き。凶器は細くて鋭利な刃物。
サイフも無くなっているが、争った形跡もない。
顔見知りの線だろう、と刑事たちが話す。
「何でこんなところで…」と呟く笹垣。

身元の確認に、妻·弥生子がやってきた。

カメラから抜いたフィルムを焼却炉に投げ込む雪穂。

警察の調べに答える弥生子、そして松浦。
「息子さん、お父さんと仲良かったんですね。」笹垣が言う。
「年とってから出来た子ですし、いい父親でしたよ。」と弥生子。
笹垣は亮司と話がしたいと申し出るが、弥生子は拒否。
だが松浦が弥生子を説得する。

「亮司君、ちょっと、ええかな?開けるで。」
亮司が戸を開け、招き入れる。部屋に飾られた切り絵に
「ハサミ上手いねんなー。」と感心する。
「おじさん、犯人絶対捕まえてやるから、協力してほしいんだ。」
なぜ洋介があのビルにいたのか、手がかりを探す笹垣。
子どもがダクト遊びに使うあの場所で、父親を見かけたことはなかったか、と
亮司に聞く。
笹垣が亮司の机の上の本を手に取ろうとすると、それを拒絶する亮司。
「ありません。」
亮司がそう答えると、笹垣は「またな。」と言い帰っていった。

亮司が家族写真を投げ捨てようとしたとき、部屋の戸が開く。
松浦だ。
「どうしたのよ、亮ちゃん。」松浦が笑う???。

亮介の視線がひっかかる笹垣。

亮司のTシャツを干す弥生子。
血は取れているようです。
弥生子が落ちているかどうか、確認しているようにも思えました。

松浦は弥生子に、亮司を含めた3人で口裏あわせをしようと言い出す。
「一応だよ、一応。
 警察にさ、あの日何やってたかなんて、本当のこと話したくないでしょ。
 あいつらさ、何でも疑うからさ。
 浮気がバレたら、桐原の家から貰えるものも貰えなくなっちゃうよ、奥さん。」
亮司のTシャツを見つめる弥生子???。

彼女は息子の犯行だと気づいているんでしょうか!?

「こうして俺の、薄ら寒い日々が始まった。
 俺が殺しておきながら、親を殺された子どもとして振舞う毎日。
 そして隠せば隠すほど…
 葬ろうとした真実は夢の中で膨れ上がった。 
 全てを吐き出してしまいたかった。
 だけど、全てを吐き出せるただ一人の相手からは、
 何も連絡がなかった。
 そんな中で、俺は雪穂と出会ったことを後悔し始めていた。 
 もし、雪穂と出会わなければ、
 俺は人殺しになんかならなかった。
 嫌らしい疑いも生まれた。
 もしかしたら、俺は騙されているんじゃないだろうか。
 雪穂はあのハサミを手に、警察に駆け込むつもりなんじゃないだろうか。
 何もかもが信じられなくなり、
 雪穂に、太陽を奪われた気がしていた。」

あの川を見つめる亮司。
雪穂は亮司のことを影から見つめていた。

南大江駅前のベンチで読書する雪穂。
「もうすぐ読破だね。」谷口が声をかける。
「スカーレットって、天国行けたんですかね?
 家を襲おうとした兵士…殺すじゃないですか。
 生きるためなら、そこまでしても、許されるのかな。」
「どうだろうね。
 でももし、この子が殺されちゃうって思ったら、
 私もやっちゃうかなー。」
自分の子を抱き上げ、谷口が言う。
「可愛い…。」
「そういうことは、桐原君と話せば?
 …そっか。今は話せないか。
 事件のこと知ってるよね。」
「学校で、噂は。
 落ち着いたら、手紙でも書こうかなって思ってるんですけど。」
「そうだね。」
「はい。」

「お父さん。ちゃんと隠しておいてね。」
雪穂は、墓をこじ開け、自分の父親の骨壷に洋介のサイフを隠し
手を合わせた。

=捜査本部=
「被害者の当日の行動がほぼ把握出来ました。
 桐原さんは午後2時ごろ、信用金庫に立ち寄り、
 現金200万円を口座から引き出したことが判明。
 そのあと午後3時半ごろ、大江商店街の洋菓子店『ハーモニー』で
 プリンアラモードを3つ買い求めた。」

そして、桐原の顧客名簿から、警察は西本文代にたどり着く。
夫は8年前に事故で死亡。現在は飲食店で勤務。
過去数度、西本家を訪ねる洋介の姿が目撃されていた。
文代は相当金に困っている、という情報もあった。

西村家の前で部下に呟く笹垣。
「わしだったら絶対殺せへんで。
 愛人やろ。金くれるんやろ?
 殺したらおしまいやないか。」
「ついかっとするとか、理由ならいくらでもあるじゃないですか。」
「ずるずる引き出したいもんやと思うんやけどなー。」

そこへ、雪穂が帰ってきた。

刑事たちにお茶を出す雪穂。
しっかりした子だと笹垣の部下が感心する。
雪穂が『風と共に去りぬ』を読んでいると知った笹垣。
「どう思う?スカーレット。
 おじさんなんかは、そういう女の人、ニガテやなー。」
「…憧れます。
 強くて、たくましくて、どんな状況でも絶対に諦めない。」
部屋を見渡す笹垣は、ゴミ箱に『ハーモニー』の箱が捨てられているのに
気づく。
笹垣を見つめる雪穂。
雪穂の視線に気づき振り返ると、彼女は本に視線を落としていた。
雪穂に鋭い視線を送る笹垣???。

そこへ、文代が戻ってきた。
「刑事さんだって。」雪穂が母に言う。
「あの、何か?」
「桐原洋介さんが殺害されたのはご存知ですか?」
「いえ…殺されたんですか?」動揺する文代。
「ご存知ありませんでしたか?」
「新聞とってないんで…すいません。」
「桐原さんが殺害される前にこちらに立ち寄るのを見たっていう人が
 いるんですが、11月11日なんです。覚えてませんか?」
「ええ。全く。どうしてそんな。」
「そうですか。もう一つよろしいですか?」

部署に戻った笹垣は、数珠に触れながら考え込む。
「妙やなかったか?」
「明かに嘘ついてますよね、あの女。」
「そうやのうて、あの子。
 母親の事庇わんかったやろ。 
 あの子、わしらがプリンの箱見とったん、気づいておったで。
 気づいとって、わざと、聞き逃したんや。
 母親を疑わせるためとか…」

笹垣は、雪穂の視線にそこまで感づいたんですね。
ものすごく鋭い刑事です。

別の刑事たちが戻ってきた。
事件当日、キリハラに行った客の証言を取ることが出来たという。
その客は、店は開いているように見えるのに、呼び鈴を押しても
誰も出てこなかったという。
刑事たちは、弥生子と店員の松浦が不倫の関係にあるとの情報も
得ていた。
松浦には前科もあるし、財産狙いの犯行も考えられる、と刑事たち。

「あの日の夜、6時から8時まで、どこにいましたか?」
弥生子に質問する刑事たち。

別の場所で同じ質問をされた松浦が答える。
「店にいましたよ。」と松浦。
「店に来たけど誰も出なかったって証言した人間がいるんです。」と刑事。
「その時は、蔵の中にいたんじゃないですかね。
 この中に入ると音がまるっきり聞こえないんです。」
「それを証明する人はいますか?」
「ええ。一度奥さんに声をかけられました。」
「奥さん家にいたのにブザー聞いても出なかったんですか?」
「しょうがないじゃないですか。
 奥さん、お店には出ない人なんですから。」
「じゃあその時奥さん何をしていたんですか?」
「さあ。あ、亮ちゃんと一緒に飯でも食っていたんじゃないですかね。」

亮司にも、同じ質問をする古賀と笹垣。
「お母さんと、ご飯食べて、テレビ見てた。
 ニュースの森と、クイズ100人に聞きましたと、ワイワイスポーツ塾。」
内容を聞かれた亮司は、刑事と目を合わさずにすらすらと答えていく。
「よくそんな覚えてるね。頭いいね。」と古賀。
「忘れられない日になったから。」
古賀が亮司をいたわるように見つめる。
だが笹垣は亮司にするどい視線を投げかけていた。
笹垣の視線を感じ、びくっとする亮司。
「この間とは、えらい違いだな、ボク。」
「慣れたんで。」
「何にや。」
「お父さんが、殺されたことに。」
笹垣がにっこりと微笑む。
「そうか。ありがとう。またな。」

=強行犯係=
「子どもまで口裏を合わせるとは考えにくいし、番組の内容も
 覚えていました。」と古賀。
「あんなのは雑誌のテレビ紹介に載ってる。わしかて言えるって。
 なんかすっきりせんねん。
 大体西本文代と桐原洋介が、なんでわざわざあんな所で会うとってん。」
「西本文代がおびき出すとか、いろいろ考えられるじゃないですか!」
「わしにはあの女に芝居が出来るとか、計画的に行動できるとか思えへんねん。」
「印象だけでものを言うのはやめてください。」
「目に見えてる事実かて真実かてとは限らない!」

別の刑事たちが戻り、報告する。
文代は事件があった3日後、消費者金融5社に約40万ずつ返済していたことに
たどり着く。
「頭、冷やしてくるわ。」笹垣は外へ出ていった。

雪穂が家に戻ると、文代が酒を飲んでいた。
「お母さん、どうしたの?」
「明日来いってさ。警察。
 やってらんないよ。私が何したっていうんだよ!」
雪穂は母の背中を見つめながら拳をぎゅっと握り締めた。

川沿いの道を歩く笹垣の顔に、紙切れが張り付く。

笹垣の過去を古賀に話してきかせる刑事。
「笹やんは昔、誤認逮捕で偉い目にあってな。
 動機、目撃者、凶器。
 全て揃った容疑者を、笹やんは自信を持って引っ張った。
 そしたらその容疑者には一人娘がいてな、
 親父が捕まってからその子な、犯罪者の子どもってイジメにあって、
 自殺しちゃったんだわ。
 そのあとにそいつの無実が証明されてな。
 俺たちの仕事はな、生まれなかったはずの悲劇を生んでしまうことがある。
 笹やんもそれが怖いんだろう。」

その頃、雪穂は亮司の作った切り絵をビリビリに破き
川へ流していた。

笹垣は、一人、殺人現場のビルにいた。

ダクトを必死に這う亮司。
誰かに足をつかまれる。振り返ると、父がいた。
慌てて前を向くと、ダクトの出口に笹垣が怖い顔をして待ち構えていた。

夢から覚め飛び起きる亮司。

「もう終わるからね。亮君…。」
雪穂は、最後の切り絵、雪の結晶を川にそっと流し、
それを見送りながら涙をこぼした。

二日酔いで眠る母親に、銀のハサミを握らせようとする雪穂。
母が目を覚ましそうになり、
「お母さん、これ飲んで。
 二日酔いに効くって。隣のおじさんにもらったの。」
雪穂はそう言い、くったくのない笑顔で笑った。
「ありがとう。優しいね、雪穂は。」
娘の頭を撫でる文代。
「雪穂、やったのってあんただろう?
 だってさ、あんた以外いないもんね。
 そりゃ、殺したくもなるよ。あんなオヤジ。
 大丈夫だよ。誰にも言わないから。
 おやすみ。」
薬を飲んだ文代は、そう言いまた眠りに落ちた。

「殺したくなるって…なんで?
 なんで、なんでそんなことさせたのよ!」
雪穂の瞳から涙がこぼれた。

ビルで考える笹垣の元に、古賀が駆けつける。
「西本文代が、子どもと無理心中を図りました!」

西本家を調べる刑事たち。
ガスによる無理心中。
笹垣は、流しの下の戸棚から、紙に包まれた銀色のハサミを発見する。
「それ、凶器じゃ!?」

=病院=
「目ー覚めたか?」笹垣が言う。
「病院?」雪穂の言葉に笹垣が頷く。
「あの、」飛び起きる雪穂。
「寝とった方がいいで。」

「お母さんはね、君と、無理心中しようとしたんだ。ガスで。
 だけど君は、命を取り留めたんだ。」
「あの…お母さんは…」
「辛いと思うけど…」と古賀。
この時の雪穂の微笑みを、笹垣は見逃さなかった。
「そうですか…。
 私だけ…生き残って…。」
「これ、お母さんの?」ハサミを見せる古賀と笹垣。
「そうです。」
ためらうことなくそう答える雪穂を、笹垣は険しい表情で見つめる。

病院の屋上で、雪穂は夜空を見上げて拳を握り締める。
彼女の瞳から涙がこぼれた。

この涙は、母への決別でしょうか。

雪穂の学校では、質屋殺しの犯人は雪穂の母親だ、という噂が広まっていた。
雪穂のランドセルには『ヒトゴロシ アイジン ハンザイ バカ』など
落書きされていた。
町を行き交う人々が、好奇の目で雪穂を見つめる。

笹垣はまた殺害現場にいた。
「まだ、すっきりしないんですか?」古賀がやって来た。
「第一発見者の菊地君はな、こない言うてんねや。
 ドアの前にはブロックや建築資材が積まれてて
 ドアはあまり開きませんでした。
 こお、あんまりていうのが、気になってな。
 これぐらいやったら、ドアは多少開く。
 犯人も逃げられる。 
 そやけど、これ全部積まれとったら、ドアは開かん。
 窓は閉まっとったと書いてある。
 となると、逃げられるところは、一つしかない。
 あっこなら、西本文代は逃げられないんじゃないか?」
笹垣がダクトを指差して言う。
「わしはな、犯人は子どもちゃうか思うたんや。
 被害者の子どもか加害者の子ども、どっちかや。
 おぞましい話やろ!?
 せやけど、肝心の動機が見つからん。
 息子やったとして、西本文代との密会現場を見たことが原因やったとする。
 せやけど、西本文代が自殺まで追いつめられる理由、
 凶器の説明もつかんようになる。
 娘やったら、相手の男を殺すほど守りたかった母親を庇わん理由も
 犯人に仕立て上げる理由もわからへん。」
「あの子は母親と一緒にガス吸ってたんですよ”!」
「なあ!だから、ドアはそこそこ開いたんや。」
「本当に納得してるんですか?」
「納得するもせーへんも、わしゃ転勤じゃ! 
 するしかないやろ。」

=図書館=
「あんた大丈夫?」矢口が亮司を心配する。
「スカーレットって、おかしいよ。
 人殺しても生きるためって、たくまし過ぎるよ。
 幸せになってやるとか、人殺しのくせに。」
「でも、彼女はさ、夢を見るんだよ。
 自分の幸せが何だかわからなくなって、
 それでも走り回る夢。」
「夢?」
「あなたのお父さん殺した犯人も、
 どこかで悪い夢見てると思うよ。
 たとえ逃げ延びたってさ、そんな風に本当の罰って、
 本人の心と記憶に、下されるものだと思うよ。
 …ね、あの子から手紙きた?
 あ、ううん、何でもない。」
亮司は矢口の言葉に、急いで家へと走って帰る。

手紙は届いていなかった。

捜査の打ち切りを知りほっとする弥生子と松浦。
「凶器も見つかって、ほぼ、犯人確定だったらしいけど、
 その人娘と一緒に無理心中しちゃったんだって。
 西本っていうの。うちの客?
 明日一応新聞にも出るって。」
「じゃあ…俺たちは、一件落着ですね。」
「まあね。」
「それで、娘のほうは?」
「助かったって。」
その話を廊下で聞いていた亮司。

「俺はその時、雪穂が全てを背負ってくれたことに、 
 あの奇妙な約束の意味に、やっと気づいたんだ。」

亮司は雪穂のアパートへと走り出す。
『すてて下さい』と書かれた張り紙と、荷物が置いてあった。

その頃、雪穂は笹垣からあのハサミを受け取っていた。
ガムテープでランドセルの落書きを隠してある。
「ありがとうございます。」
「こんなん持っときたいんか?
 事件のこと、思い出すんじゃないか?」
「いい思い出もあるから。
 お母さんの形見だし。
 もともと、死んだお父さんのものだし。」
「一つ嘘をついたらな、どんどん嘘つかなあかんようになんねん。
 そんな人生に未来なんてあらへん。
 お天道さんの下歩かれへんようになる。
 身~滅ぼすだgけや。
 わしに、何か言うこと、ないんか?」
「いろいろお世話になりました。」笑顔でそう言い、歩き出す。
「なあ! 
 君やったらなれると思うで、スカーレット。」
「ありがとうございます。」
笹垣に笑顔で答えた雪穂は、彼に背を向けると険しい表情で歩き出した。

「わがこころのよくてころさぬにはあらず。
 また害せじとおもふとも、百人千人をころすこともあるべし」
(往生のために千人殺せと私(親鸞)が言ったら、
 おまえ(唯円)は直ちに千人殺すことができるはずである)

亮司は図書館に駆け込み、雪穂が借りていた『風と共に去りぬ』最終巻を探す。
本の間に、黄色い手紙が挟まっていた。

『亮くんへ。
 いつか、この手紙見るかな。
 そう信じて、書くよ。
 何があっても、多分亮くんが思っている通りです。
 後悔なんて全然してないけど、
 本当は、私自身も一緒にいなくなるつもりだった。
 私と亮くんをつなぐものは、
 とにかく全部消えてしまったほうがいいと思ったから。

 だけど…肝心の私だけは残ってしまった。ごめん。
 どうも私は 神様にに嫌われているみたい。
 死んだら全部終わるなって、心のどこかにあったズルを
 見逃してもらえなかったみたい。
 だけど、こうなったらどこまでも生きてやろうと思います。
 親を殺してまで、手に入れた人生だから。
 私は、遠くに行きます。
 場所は言わないね。
 人から見れば もう亮くんは被害者の息子で、
 私は、加害者の娘です。
 私たちが仲良しなのはどう考えてもおかしいし、
 それがバレたら、きっとすべてが無駄になってしまう。
 今までも、これからも、会ったこともない、
 名前も知らない他人でいよう。
 二人のためには、それが一番いいと思うんだ。
 だけど、あれはもらっていく。
 あれは、亮くんだから。
 ドブのような毎日の中で、
 白い花を咲かせてくれた亮くんだから。
 いいことなんか何もないって思っていた私に、
 笑うことを教えてくれた、亮くんだから。
 何よりもあの時…私を助けてくれた、亮くんだから
 亮くん…ありがとう。
 私、あの時ほんとにうれしかった。
 生まれてきてよかった。
 もう十分だって、そう思ったんだ。
 亮くんは、私の太陽だったよ。』

手紙の中の亮という文字は全て消されていた。

その頃雪穂は電車のホームでハサミをにぎりしめていた。
雪穂が電車に乗り込もうとした時、亮司が雪穂の腕をつかむ。
雪穂の手からハサミと帽子が落ちた。
電車のドアが閉まる。
「待って。」
息切れしながらそう言う亮司。
汗だくの亮司の膝には転んだあとがあった。
雪穂の瞳から涙がこぼれる。

「雪ちゃんだって、ドブに花咲かせてくれたじゃない!
 月も…。
 俺、、雪ちゃんと出会って、笑えるようになったよ!
 いいことあるんだって、そう思った!
 雪ちゃんがいてくれたこと、ありがとうって思ってるよ!
 雪ちゃんだって、…雪ちゃんだって俺の太陽なんだよ!
 行かないで!行かないでよ雪ちゃん!
 俺、強くなるから。雪ちゃんはこんなことしなくていいように。
 もう、絶対置いて逃げたりしない!」

雪穂が俯き、改札のほうを指差す。
「行って。
 行って。
 もう暗くなるから。」

「いつの間にか、俺たちの上には 太陽はなかった。
 他人でいること以外、おまえに出来ることはもう何もないんだと、
 笑われてている気がした。」

亮司は落ちたハサミを拾い上げ、雪穂の手紙を切り始める。
電車の中で、亮司が作ってくれた切り絵を手にあわせる雪穂。
それは、太陽の切り絵だった。

「俺たちは、11歳だった。」

=1998年冬=
ホームに切ない表情でたたずむ制服姿の亮司。
反対側の電車に乗った雪穂が亮司とすれ違う。

「たった七年のうちに、ほとんどのことは変わった。 
 俺が中学を卒業する頃、キリハダは潰れた。
 松浦が店の金を使い込んだからだ。
 あのビルは建築が再会され、
 お袋はそこでスナックを始めた。
 事件のせいで保証金がゼロだからだと言っていた。
 雪穂のことなど、もう誰も覚えていないだろう。
 多分、この人(矢口)と、俺、
 と、こいつ(松浦)以外。

 俺たちはこのままほんとに他人として生きていくものだと
 思い始めていた。
 もう、交わることのない道を歩いていくのだと。」

雪穂は、唐沢礼子(八千草薫)に引き取られていた。
「ただいまお母さん。」
「お帰り。」礼子が雪穂に優しく微笑む。

食事の席で、雪穂にボーイフレンドはいないのか尋ねる礼子。
「いきなり何言うかな。」
「毎日毎日帰ってきて私のご飯作って、
 休みの日はお教室手伝って、 
 お母さんにはようわからんけども、
 それは、若い子の生活と違うんじゃないの?」
 遠慮せんと、もっとやりたいことやってええんよ。」
「じゃあ今度、温泉行こうよ。
 流行ってるんだよ、温泉!」
雪穂は笑顔でそう言った。

部屋のベッドに横になり、爪をかむ仕草の雪穂。
「上手くやれてるよね、私…。」
壁には、亮司が作ってくれた太陽の切り絵が飾ってあった。
それを見つめながら、「亮くん???」と呟く雪穂。

友達と下校する雪穂を、他校の男子生徒がカメラで狙う。
「ラッキー!」
撮影に成功すると、生徒は走って逃げていった。
「大江工業じゃない? 
 あの学校、暴れん坊将軍なのよね!」雪穂の友達が言う。
「そういう言い方良くないよ。
 どこにでも凄い人もいれば、くだらない人もいるでしょ。」と雪穂が諭す。

雪穂を険しい表情で見つめる女子生徒がいた…。

「事件は時に埋もれ、忘却の空へ…。
 もう全てが終わったと思っていた。
 もう誰もが、忘れたと思っていた頃だった。」

信号待ちをする亮司。
道路の向い側に、笹垣が亮司を見つめて微笑みを浮かべていた…。