西川さんはおられますか? 001「おられる」


○ 慣用として認めてよい表現だと思います。

「おられる」は尊敬の気持ちをこめた表現として、広く使われている表現です。「おる」はもともと「居る」で、じっと座っているという意味です。こちらが卑下するという意味をもつので謙譲語として用いて、相手の動作には使わないのが原則でした。その謙譲語「おる」に「られる」という尊敬語をつけた「おられる」は、

    1.「おる」の部分が謙譲語なので相手の動作に使えない
    2.「おら・れる」は、謙譲語と尊敬語を重ねて使っている

という2点で誤用だとする専門書が多く存在しています。ところが、関西地方では昔から「西川さんがいる」を「西川さんがおる」と丁寧な表現として使っているので、目上の人に「おられる」という表現を使っても違和感がなく、公的に使える尊敬表現として広く使われてきました。謙譲語ではない「おる」に「られる」という尊敬語をつけると考えるのならば、文法上の問題はなくなります。

「いる」の尊敬語は「いらっしゃる」「おいでになる」なので、標準的な尊敬表現は「西川さんはいらっしゃいますか?」「西川さんはおいでですか?」となります。 「いらっしゃる」「おいでになる」がちょっと丁寧すぎる、と感じるときには「西川さんはおられますか?」と使ってもよいと思います。 「打ち消しのほうが丁寧になる原則」を使って「西川さんはおられませんか?」とすると、さらに丁寧になります。


 (私の)息子の雅彦はおりますか? 002「おる」


◎ 正しい。自分の身内に謙譲語「おる」をつかっています。

自分の身内のことをたずねている例です。相手よりも自分に近い存在である「息子」に対して謙譲語「おる」を使っているので、正しい表現です。「息子」「愚息」「せがれ」「長男」「子ども」は、自分側の身内を呼ぶ言葉です。相手の子どもは「お子様」とよぶのが一般的です。



 うちには犬が3匹おります。 003「おる」


◎ 正しい。自分に謙譲語「おる」をつかっています。

この文の基本形は「うちには→おります」です。「うち」というのは本来は「家・宅」のことですが、家に住んでいる家族や自分のことを広く指すこともあるので、この場合は自分に謙譲語「おる」を使っていることになります。「うちには犬が3匹います。」と表現してもよいと思いますが、「おります」の方がやわらかい表現なので、相手は丁寧さをより強く感じると思います。「うち」のことを謙遜する表現として「拙宅」「小宅」「当家」等の表現があります。



 中川さんのお宅に、犬はおりますか? 004「おる」


△ 主語が「犬」になっています。犬に敬語=謙譲語を使うかどうか?

日本語の場合、「主語に”は”をつける」ことが基本です。この文例では、「犬は・・」つまり犬が主語となっています。つまり、「犬」に謙譲語を使って下げることで、「中川さん」に敬意を表している形になりますね。形の上では間違いとは言えませんが、ひとつ問題になることがあります。それは「敬語は古くから人間や神格化されたものだけに使い、事物や動物には使わない」という原則があることです。犬に敬語を使っていることが問題になってしまいます。

今までは、動物や赤ちゃんに敬語を使うのは間違いであると言われてきました。確かに、犬の行動に「~なさる」などの尊敬語を使うのは行き過ぎでしょうが、「ペットを家族同様にとても大切に思っている気持ち」からでてくる丁寧語や謙譲語であれば、よいのではないかという気もします。実際に、上の文例を「失礼だ」と感じる人はほとんどいないと思います。「うちのワンちゃんってと~っても利口でございますのよ!」・・のように何かしらの嫌みが感じられる表現はよくないと思いますが、それは言葉の使い方というよりも、話している人の人格の問題だと思います。



 中川さんのお宅に、犬はいらっしゃいますか? 010「いらっしゃる」


▲ 主語が「犬」になっています。犬に尊敬語は使えません。

 話している人はきっと「中川さん」に尊敬語を使っているつもりです。これは、No004と同様に「助詞”は”を使うことで犬が主語になってしまう」ので、犬に尊敬語を使う形になっているのがおかしいのです。正確には「中川さんは、犬を飼っていらっしゃいますか?」です。これで、主語が中川さんになります。相手との間柄が堅苦しい関係でなければ「お宅には犬が何匹いるのですか?」というあっさりした表現でも失礼にはあたらないでしょう。

 余談になりますが、ペットに愛情を注いでいる方にとっては「犬」という表現はきついと感じることもあるようです。「ワンちゃんの方が丁寧ですよ」とペットショップの方より助言をいただきました。



 <来客に> 米田課長はまだいらっしゃってないんですが。 011「いらっしゃる」


× 客の前で身内に尊敬語「課長」「いらっしゃる」を使っています。

姓の下に課長などをつけると敬称になりますので、社外の人に「米田課長」というのは身内に対する敬語になり、失礼にあたるとされています。「いらっしゃる」も同様で、身内に対する敬語となります。相手に対しても「~ですが」という丁寧表現だけで敬語が使えていないことになります。 さらに、この投げかけだと、「待つか?出直すか?どうしたらいいのか判断できない」という状況になり、相手は困ってしまいます。

「(課長の)米田は遅れております。大変申し訳ありません。○○頃来ると聞いておりますので、もうしばらくお待ちいただけますでしょうか。」という丁寧な対応が求められます。丁寧な対応ができたら、物事がプラスに転じることもあります。後から「きちんとした印象のいい社員さんですね」とお客さまにほめられると、課長も「遅れて良かったよ!」なんてことに・・・なるかも知れません(笑)。


 お住まいは京都でいらっしゃいますか。 012「いらっしゃる」


× 住まい=人ではない物に尊敬語「いらっしゃる」を使っています。

 日本語は、「~は」が主語=話の主題になりますので、この場合は「お住まい」に「いらっしゃる」という「尊敬語」を使っているという構造になり、不適切な表現だといえるでしょう。原則としては「お住まいは京都ですか。」という表現で失礼にはあたらないということです。丁寧に表現したいなら「お住まいは京都でございますか。」となるでしょう。「住まい」についている「お」は、「あなたの~」という意味ですので敬語の使い方として問題ありません。
 この場合「住まい」を主語に立てているので本来なら尊敬表現が使えません。でも、相手に対して敬意を表現したい場合は上の文のように表現しなければならなくなり、なんとなく不自然になってしまいます。

 改善のポイントは2つあります。ようするに相手に対して直接敬意を表現できればよいのですから、 

 ■1.主語を人間にする
 ■2.「住む」という人間の動作を述語にして表現する

ということです。具体的には「(あなたは)京都にお住まいですか。」ならばきちんと敬意を表現できます。文末を「~でしょうか。」「~でございますか、。」としてもよいでしょう。