東京・新宿区の早稲田大学では、2年ぶりに入学式が行われ、卒業生である作家の村上春樹さんが祝辞を述べました。

位于东京新宿区的早稻田大学时隔两年举办了入学典礼,作为毕业生的作家村上春树发表祝词

こんにちは。ご入学おめでとうございます。なかなか世の中は落ち着きませんけれど、みんなでここに集まって新しい門出を祝えるというのは、素晴らしいことだと思います。

大家好。祝贺大家进入早稻田大学。虽然这个世界尚未恢复平静,但我觉得大家能聚在这里庆祝新生活的开始是非常棒的事情。

僕は50年以上前に文学部に入りましたが、そのときは小説家になろうという気持ちはありませんでした。でも結婚、卒業して日々仕事に追われているうちに、突然小説を書きたい気持ちになって、ふと気がついたら小説家になっていました。なりゆきというか何かに導かれているのか、自分でも分からないです。

我50多年前进入文学部就读,当时还没有要成为小说家的想法。但结婚、毕业之后,每日忙于工作,突然就有了写小说的想法,等意识到的时候,已经成为了小说家。我自己也说不清是顺其自然还是被什么指引。

在学中に結婚したので、まず結婚して仕事を始めて、最後に卒業したんです。普通の人とは順番が逆になってしまったんです。あまりそういう生き方はおすすめしませんが、何とかなるものです。

我是上学期间就结婚了,结婚后开始工作,最后才毕业。这和普通人的顺序完全相反。虽然我不太推荐这种顺序,但桥到船头自然直。

小説家は頭が良くてもなれないんです。頭が良い人はすぐ頭でものを考えちゃいますよね。頭で考えた小説はあまり面白くありません。心で考えないと、良い小説は書けないのです。

小说家不是靠头脑聪明就能做的。因为聪明的人遇事马上就会用大脑思考。但用大脑思考写出来的小说不怎么有趣。不用心思考,就写不出好的小说。

でも、他人に読んでもらえる文章を書くのは、けっこう頭を使いますから、必要に応じて頭が一応働いて。でも秀才、優等生じゃないよね、というのがちょうど良い頃合いなんです。その頃合いを見つけるのは難しいです。皆さんの中には、文学部、文化構想学部だから、小説家になりたい人がいると思うけれど、良い兼ね合いをうまくみつけて下さい。早稲田大学は、そういう作業には適した環境じゃないかなと思います。

但要写出给别人读的文章,是需要动许多脑筋的,所以必要的时候脑筋也要动起来。但并不是说有才能的人、优等生就行。用心和用脑的程度要把握恰当。而要掌握这个平衡是很难的。我想大家在座的是文学部、文化构想学部的学生,会有想成为小说家的人,还请好好找到这一平衡。我觉得早稻田大学应该是适合找到这种平衡的环境。

今年の秋に早稲田のキャンパスに「国際文学館、村上春樹ライブラリー」がオープンします。書籍・資料・音楽コレクションなどをそろえて、学生に自由に使ってもらえるスペースです。研究施設も備えて、海外との文化交流のステーションとしての機能も与えられています。

今年秋天,“国际文学馆 村上春树图书馆”将在早稻田的校园内开放。那里会有书籍、资料、音乐收藏等等,是学生可以自由使用的空间。同时还具备研究设施,拥有作为平台与海外进行文化交流的功能。

ライブラリーのモットーは「物語をひらこう、心を語ろう」です。これは少し説明が必要かもしれません。「心を語る」というのは簡単そうで、難しいんです。僕らが普段、「これは自分の心だ」と思っているものは、僕らの心の全体のうちのほんの一部分に過ぎないからです。つまり、僕らの「意識」というのは、心という池からくみ上げられたバケツ一杯の水みたいなものに過ぎないんです。残りの領域は、あとは手つかずで、未知の領域として残されています。僕らを本当に動かしていくのは、その残された方の心なんです。意識や論理じゃなく、もっと広い、大きい心です。

图书馆的宗旨是“开拓故事,讲述内心”。这个可能需要说明一下。“讲述内心”看似简单,其实很难。我们平时认为“这是自己的内心”的东西,只不过是我们心中小小一部分。也就是说,我们的“意识”只不过是从内心这个池子里打上来的一桶水。剩下的领域,都是没有用上未知的领域。而真正让我们行动起来的,是剩下的那部分心。不是意识和逻辑,而是更宽广、更宏大的心。

では、その「心」という未知の領域をどう探り当てればいいのか。自分を本当に動かしている力の源をどうやって見つけていけばいいのか。その役割を果たしてくれるもののひとつが、「物語」です。

那么,该如何去探索“心”这个未知的领域呢。怎样才能找到真正推动自己的力量源泉呢。能起到这个作用的东西之一就是“故事”。

物語は僕らが、僕らの意識がうまく読み取れない心の領域に光を当ててくれます。言葉にならない僕らの心をフィクションという形に変えて、比喩的に浮かび上がらせていく。それが小説家のやろうとしていることです。

故事将照亮我们意识无法很好读取的内心领域。将我们内心无法用言语表达的东西通过虚构的方式,用比喻一般的方式使其浮现出来。那就是小说家要做的事情。

だから、小説というのは直接的には社会の役には立ちません。即効薬やワクチンのようにはなれません。でも、小説という働きを抜きにしては、社会は健やかに前に進んでいけないんです。というのは、社会にも心というものがあるからです。

因此,小说不能直接对社会有所贡献。不能像速效药和疫苗那样直接发挥作用。但如果没有小说诉说人们的内心,社会就不能健康地向前发展。之所以这么说,是因为社会也是有“心”的。

意識では、論理だけではすくいきれないもの、そういうものをしっかりゆっくり取っていくのが、小説の、文学の役目です。心と意識の間にある隙間を埋めていくのが小説です。

小说、文学的任务就是慢慢地准确地捕捉到意识上逻辑上不能马上捕捉到的东西。小说填补了心灵和意识之间的空隙。

小説家という職業は人の手から手へと、まるで松明のように受け継がれてきました。皆さんの中にその松明を受け継いでくれる人がいたら、あるいはまた、それを温かく、大事にサポートしてくれる人がいたら、僕としてはとてもうれしいです。

小说家这个职业如同火把一样,从一个人手中传到另一个手中。如果大家当中有能够接过这一火把,或者有能温暖守护火把传递的人,我会非常高兴的。

改めて、ご入学おめでとうございます。このキャンパスで充実した素敵な何年間かを送って下さい。ありがとうございました。

再次祝贺大家入学。请在这个校园里度过充实又美好的几年时光。谢谢大家。

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