むかしむかし、日本に仕事で来ていたオランダ人が国へ帰る時、通訳の人たちが船まで見送りに来ました。

很久很久以前,来日本工作的荷兰人回国时,一些翻译送他到船上。

そして長崎の港にいる船の中で、お別れのパーティーをする事にしたのです。

而且,在长崎港的船上,为他举行了送别会。

通訳仲間が船の中で酒を酌み交わしていると、すっかり上機嫌になったオランダ人が言いました。「みなさん方のおかげで、無事に仕事をすます事が出来ました。感謝します。ありがとう。そのお礼に、何でもお望みの物を本国からお送りしましょう」

翻译们在船上互相敬酒,荷兰人兴致高昂地说道「托大家的福,能够顺利完成工作。非常感谢。作为礼物,大家有什么想要的,我可以从荷兰寄给大家」

通訳の人たちは喜んで、あれやこれやと色々な物を頼みました。

翻译们高兴极了,委托了各种各样的东西。

でも、その中でただ一人、西田長十郎(にしだちょうじゅうろう)だけが黙っています。

但在这其中只有一个叫西田长十郎的人没有说话。

通訳はみんな長崎の人間でしたが、この西田という通訳は江戸からやって来たのです。

翻译都是长崎的人,唯独这个叫西田的翻译是从江户来的。

長十郎が何も言わずに黙っているので、オランダ人が尋ねました。「長十郎さん、あなたは、何をお望みですか?」

因为长十郎什么都没说,所以荷兰人便问他「长十郎,你有什么想要的吗?」

「はい。わたしには、別に欲しい物はありません。ただ」

「是的,我没有什么别的想要的东西,只是」

「ただ?」

「只是?」

「実は、残してきた妻子の事が気がかりなのです。江戸からこの長崎へ来てから、はや六年。その間、妻子の顔を見ておりませぬ。妻子がいま、どの様に暮らしておりますやら。それを知りたいだけが、願いでございます」

「其实,我比较挂念留在家里的妻子。我从江户到长崎已经快六年了。这六年都没有见过妻子的容貌。妻子现在过得怎么样了,我就想知道这个,拜托了」

するとオランダ人は、にっこり笑って言いました。「妻子を思う気持ち、よく分かります。そしてその願いは、簡単に叶います」

听到这个,荷兰人嫣然一笑。「思念妻子的心情我能理解。而且,这很容易实现啊」

「本当ですか?」

「真的吗?」

「はい、すぐに、叶えてあげましょう。ただし、決して口を聞いてはなりませんよ。よろしいですか」

「是的,马上就能实现。但是,绝对不能开口说话。可以做到吗?」

「はい、決して」

「好的,一定」

長十郎が約束すると、オランダ人は倉庫から持って来たガラスの大きなはちに、水をなみなみと入れました。

在得到长十郎的承诺后,荷兰人从仓库拿来一个很大的玻璃容器,然后往里面装满了水。

そして、「さあ、妻子を思い浮かべながら、はちの中をじーっと見つめください。そうすれば、どんなに離れていても妻子の様子がわかります」と、いうのです。

然后说道「那么,一边想着你妻子的模样,一边一眨不眨得看着容器里面。这样的话,不管你的妻子离你有多远,你都能看到她啦」

長十郎は言われた通り、水の中をじーっと見ていました。

长十郎就按照他说的那样,全神贯注地看着水里。

すると水中に、自分の家の近くの山や林がはっきりと見えて来たのです。

然后,居然清楚地看到了自己家附近的山和树林。

(これは、不思議な)

(这可真是不可思议啊)

なおも見続けていると、いつの間にやら長十郎は、自分の家の門の前まで来ていました。

再接着看,不知不觉中长十郎居然来到了自己家门口。

門は修理中だったので、長十郎はそばの木に登って家をのぞいて見ました。

因为门正在修理中,所以长十郎爬上附近的树,偷偷看家里。

すると女房がうつむいて、庭先で洗濯仕事をしています。

然后就看到妻子低着头,正在院子里洗衣服。

(何とかして、こっちを向いてくれないものか)

(不管怎么样,好歹向这边看一下吧)

じーっと待っていると、女房は洗濯の手を休めて、ひょいとこちらを見ました。

默默地等着的时候,妻子停止洗衣服,突然朝这边看过来。

長十郎と女房の、二人の目が合いました。

长十郎和妻子,双目相会。

(あっ・・・)長十郎は思わず、何かを言おうとしました。

(啊・・・)长十郎情不自禁地想说点什么。

(あっ・・・)女房の方も、長十郎に言葉をかけようとしました。

(啊・・・)妻子也想和长十郎说点什么。

でもその途端、オランダ人がはちの水をかき回したので、それっきり何もかも消えてしまいました。

但是就在这时候,荷兰人搅浑了罐子里的水,一切都消失了。

長十郎は、がっかりして、「残念。もう少しで、妻と言葉を交わす事が出来たのに」と、言うと、オランダ人は、「すみません。でも、もしもここでお話しをなさると、お二人の命にかかわります。あなたが言葉をかけようとしたので、急いで消したのです」と、言いました。

长十郎有点失望,说道「真遗憾。要是再能和妻子说点什么就好了」。荷兰人说道「不好意思。但是如果再让你说点什么的话,那你们俩就性命攸关了。因为你想说点什么了,所以就急急忙忙让它消失了」

それから数ヶ月後、ようやく長崎での仕事を終えた長十郎が江戸の家に帰って来て、あの時の事を女房に話すと、「まあ、そうでしたか。あの時、かきねの外にあなたがいらっしゃるのを見て、わたしも何か申し上げようと思いました。ところが、にわかに夕立ちが降り出して、お姿が見えなくなったのですよ。てっきり夢かと思っていましたが、本当だったのですね」と、言ったそうです。

后来在几个月后,好不容易结束了长崎的工作的长十郎回了自己江户的家,把那时候的事情和妻子说了一下。「啊,原来是这么回事啊。那时候,看到围墙外你的身影的时候,我也想和你说点什么。但是,突然下起雷阵雨,然后就看不到你了。一直以为肯定是在做梦,原来是真的啊」妻子这样说道。

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