酒の害物語(二)

ヘレンさんは小さな声でつぶやきました。
「あんたの憂さなんて、せいぜい酒が
足りないことくらいでしょ。」

ヘレンさんが腹を立てるの無理はありません。
夫のバッカスさんは 来る日も来る日も酒びたり。
赤い顔をしていないときなど,一瞬だってないのです。
夫の前では怒ったものの、
実はバッカスさんの体を、誰よりも心配しているのです。

ある日、ヘレンさんはたまりかねて、
知り合いのお医者さんに電話をかけました。

「ドミトリス.ヒポクラテス先生、
うちの主人のバッカスは、お酒をがぶがぶ飲みすぎて、
ふくらんだお腹がまるでビア樽みたいになりました。
ちょっと往診をお願いします。」

しばらくすると、ヒポクラテス先生が森にやって来ました。

『わしゃ、どこも悪くないぞ。
酒も飲めるし、ココロも軽い。
医者なんかに、これっぽっちも用はない!」

そして、巨体をゆすって立ち上がりると、言いました。
『ほうら先生、見てください。
どこから見ても健康そのものじゃないですか!」