■「問い」を問い直すラジカルな人間論

■重新提出“问题”彻底的人类论

「幸福だった」というふうに、幸福は失ってはじめてわかる。あるとき幸福を感じても幸福感というものは長続きせずに凡庸な日常へとすぐに均(なら)されてしまう。幸福への問いは難儀なものだ。

如果说的是“曾经幸福过”这样的话,那么就知道已失去了幸福。有时即使感受到了幸福,幸福感却无法长久保持,而是很快会被庸碌的日常生活所平均掉。对幸福的质疑是一大难题。

幸福というテーマは、西洋の歴史において、19世紀までずっと哲学思想の核心にあった。ところが20世紀も四半世紀過ぎたころから、不幸論はわずかながらあっても、幸福へのパスポートのようなマニュアル本はあっても、幸福の思想は消えてしまう。世界大戦、アウシュビッツスターリン体制下での粛清、ヒロシマ・ナガサキなどの“殲滅(せんめつ)”がくり返され、人間性というものが再起不能なまでのダメージを受けたということがあるのだろうか。

幸福这一主题,要是追溯到西洋历史上,直到19世纪末都曾是哲学思想的核心。到了20世纪四分之一的时候,即使有了微弱的不幸论出现,还有通向幸福之路的护照般的指南读本,幸福的思想却逐渐消失了。世界大战、奥斯维辛、斯特林体制下的肃清、广岛·长崎等的歼灭,种种灾难周而复始,人性受到了严重的创伤,一蹶不振。

ところが昨今、「国民総幸福量」(GNH)という国家発展の評価軸や、「幸福経済学」という名の実証研究など、幸福論のインフレーションが起こりつつある。それらを横目で見ながら、著者は、幸福の思想史に正面から取り組む

然而近来,“国民总幸福量”(GNH)这一国家发展的评价轴心与“幸福经济学”这一命名的实证研究,将幸福论持续炒热。本书作者一边侧目以视着这些,一边从正面埋头于幸福的思想史的研究。

まず、古代ギリシャの幸福観をいくつかの原型に分類し、近代西欧社会へのそれらの残響を細かに確認しつつ、いくつかの系譜とそれらの交叉(こうさ)を描きだす。この見取り図はとても勉強になる。

首先,将古希腊的几种幸福观的原型进行分类,在详细确认其对近代西欧社会所残留影响的基础上,描绘出几种与其交叉的源流。这幅示意图十分有助于学习。

次に、19世紀末から1930年にかけて出版された、ヒルティ、アラン、ラッセルの3大幸福論を読み解く。多くの人がきれいごとばかり書かれているのだろうと読まずして思い込み、正面から論じられることもめったになかった3書の学史的ないし政治的な背景を仔細(しさい)に探ることで、これらを歴史の文脈のなかへ置き戻す。

接着,是对从19世纪末到1930年出版的Hilty、Alain、Russell所提出的3大幸福论进行解读。大多数人臆测不过都是写了些漂亮话而不去阅读,其实却是从正面论证、极为罕见的3册学史资料,甚至还深入细致地探索了政治背景,将他们重新置于历史的文脉之中。

最後に、「幸福とは何か」「人はいつ幸福となるか」といった問いが無意味である理由が論じられる。人間の本質とか本性といったものを前提として、その属性として幸福を語ることはできず、逆に、幸福という「何だか分からないもの」への問いが人間性なるものの問いなおしを促すのだ、と。

最后,论证了关于“幸福是什么”、“人何时会幸福”这些质问下无意义的理由。以人类的本质、本性为前提,这样的特性会导致无法探讨幸福。相反,会促使提出幸福“是不知所谓的东西”这样的与人性相符的反论。

人びとが深く執着してきた幸福という観念が、社会のなかでいわば疑似餌(ルアー)のような役割を果たさせられてきた事実に対抗するかのように、著者は「『幸福』という語は、人知れず生まれて消えてゆく個体のあるかなきかの、しかし無限な『特異性』の肯定である」と書きつける。

人们对幸福这一观念有着深深的执着,在社会中,换言之就如同为了对抗像诱饵一样能产生作用的事实,作者写下了“‘幸福’之说,在不知不觉中诞生并消失,是一种似有似无的个体存在,然而能肯定的是它具有无限的‘特异性’”这样的话。

わたしたちは「私」という自己理解を溢(あふ)れ出る波動のようなものとして、いつもすでに他者たちのそれと細部にいたるまで交差しあい干渉しあっており、その界面に浮かび上がる波紋の一つとして幸不幸はあるということだろうか。幸福論はここで、遊牧民のように異郷を旅してきたこの哲学者ならではのラジカル(根底的)な人間論となっている。

我们对于“我”自己的理解就像波动一般满溢,总是和其他人直至细微部分都互相交叉、干涉,而在表面浮起来的波纹便是幸与不幸的一种。幸福论,在这里就成了像是游牧民族一样的,在异乡旅行的哲学家才有的,根本性的人类论。

◇河出ブックス・1575円/ごうだ・まさと 57年生まれ。明治大学教授(哲学・思想史)。著書に『レヴィナスを読む』『ジャンケレヴィッチ』など、訳書にレヴィナス『存在の彼方(かなた)へ』、メルロポンティ『ヒューマニズムとテロル』など。

◇河出书社·1575日元/合田正人 57年出生。明治大学教授(哲学·思想史)。著作有《解读Levinas》、《Jankélévitch》等,翻译作品有Levinas的《走向存在的你》、Merleau-Ponty的《人道主义与恐怖主义》等。

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