1. オノマトペの概要

本章では、まずオノマトペについて定義する。そして擬音語と擬態語に分類し、それぞれの定義を解明する。実例を通して、オノマトペへの理解を深めるのを目標だとする。

1.1 オノマトペとは

オノマトペに関しては、古くは江戸時代から研究がされていて、様々な観点からされている。その中には擬音語、擬態語の二大類が含まれている。『広辞苑』によると、オノマトペは「さらさら」「ざあざあ」「わんわん」のような「音響・音声をまねて作った語」、すなわち擬音語と「にやにや」「ふらふら」「ゆったり」のような「視覚・触覚など聴覚以外の感覚印象をことばで表現した語」、すなわち擬態語とある。詳しく述べると、実際にある音、あるいは人や動物の声を言語音で模倣した言葉と様子や状態を言語音で模倣した言葉のことである。

使用例を出すと、以下のようなものがある。
(1)一週間ぶりでベッドを下りた父は、ふらふらしながら歩いていた。
(2)後ろから肩をぽんと叩かれて、思わずびくっとしてしまった。
(3)夕焼け空にカラスがかあかあと鳴く。
(4)もう三時間も待たされたとぶつぶつと呟く。

以上のように、「ふらふら」、「びくっと」、「ひらひら」、「かあかあ」、「ぶつぶつ」はそれぞれに、人の動き、人の感情、ものの様子、動物の声、人の声または様子を模倣して、言語音で作られた語。すなわちオノマトペである。
『擬音語・擬態語使い方辞典』に収録されるオノマトペの数は約1700語である。また、実生活の中、同じ現象、動作などを描写するときに、使う人の年齢、出身、性別、仕事などによっても、オノマトペが違っているわけである。それに、描写の要求に満たすため、即興に新しいオノマトペを創作することもかなり多い。こうして見れば、オノマトペの数は数え切れないのである。
本研究では、先行研究を踏まえて、現代共通語として現代人が日常生活の中でごく自然に使用しているものだけを取り上げて論じたいと思う。

1.2 擬音語

オノマトペの二大類のその一、擬音語とは、実際の音を言語音で表したものである。言語音でないもの、例えば音声模写や声帯模写は擬音語に入らない。擬音語のうち、特に人間や動物の声をまねたものを擬声語というのである。つまり、擬音語は「ざあざあ」「ごろごろ」「ばたーん」のような自然界の音や物音をまねたものの擬音語と、「けらけら」「おぎゃあ」「わんわん」のような人間や動物が発した音を表す擬声語に分けられる。

まず自然界の音や物音を表す擬音語の用例を見てみよう。
(5)台風が近づいているため、朝から雨がざあざあ降っている。
「ざあざあ」とは、大量の水や砂・米など小粒のものが勢いよく移動する音。雨がざあざあ降るというのは、家の中にいても、外の雨の音がはっきり聞こえるほど、雨が強く降っていることである。台風の雨や、夏の夕方に急に降ってくる夕立などが、ざあざあ降る雨である。
(6)空が急に暗くなり、黒い雲が出てきた。遠くのほうで雷もごろごろ鳴っている。もうすぐ雨が降ってきそうだ。
ここの「ごろごろ」とは、雷がとどろき渡る音。雷が鳴るとき、ごろごろという大きな音がする。実際の雷の音と非常に似ているため、誰にでも「ごろごろ」で雷の音をまねして聞かせたら理解できる言葉である、まさに擬音語の役割を果たしている例である。

次に人間や動物が発した音を表す擬声語の例を見てみよう。
(7)この年頃の女の子は、何かというと、けらけらと笑いこけるものだ。
「けらけら」とは、軽々しい感じの甲高い笑い声。女性は普通、男性より声が高く、特に笑い声がより鋭く、甲高く聞こえる。
(8)わんわんと犬が激しく吠えている。
「わんわん」は犬が吠える声、または人が激しく泣き声を表す。ここでは明らかに犬の吠える声を指している。

1.3 擬態語

その二、擬態語とは、様子や状態を言語音で表したものである。金田一春彦の『擬音語・擬態語概説』によると、擬態語はさらに、「きらきら」「つるつる」「さらっと」のような無生物の様子を表す擬態語、「いらいら」「わくわく」「うっとり」のような人の心の状態を表す擬情語、及び「ぐんぐん」「ふらり」「ぼうっと」のような生物の様子を表す擬容語の三つに分類された。

下位分類の擬態語として、以下の例がある。
(9)きらきら光る涙がとても美しい。
ここの「きらきら」というのは、光り輝くさま。涙が無生物で、外界の光に照らされて、輝いているようすを「きらきら」を通して表現される。
(10)温泉は乳白色で、入浴後には肌がつるつるする。表面がなめらかなようす。
「つるつる」の意味としては、①なめらかなものを勢いよく続けて吸い込む音・ようす。②表面がなめらかなようす。③なめらかに滑るようす。三つあるのであるが、使う場合によると、属性が違ってくる。詳しいことは本節の結末の部分でまた検討する。ここでは、②の意味を取る。入浴後の肌の滑らかさを生き生きして表現するときに、「つるつる」を利用して伝達する。
(11)さらっとした麻の肌ざわりは夏服としてこの上ない。
「さらっと」というのは粘り気や湿気がなく、表面が乾いているさまを表す。夏になると、気温が高く上がっていくため、体が爽やかな肌触りの生地の服を求める。この爽やかさを表すため、擬態語には「さらっと」が当てはまる。
次は擬情語の用例を見てみよう。
(12)この交渉がどうまとまるか、関係企業はいらいらと成り行きを見守っている。
「いらいら」は思い通りにいかず腹立たしくなり、落ち着かないようすを表す。交渉そのものは緊張感のあり、結果知らぬことである。結果が出る前の雰囲気を表現しようとするときは、企業職員の不安を表現する言葉として、「いらいら」を用いる。
(13)子供たちはわくわくと胸をおどらせてクリスマスのプレゼントをあけにかかる。
「わくわく」というのは、期待や喜びで心がはずんで落ち着かないさま。解釈通りに言葉自身がプラス意味を持っている。よく期待感のある行為をする前の気持ちをこれで表現する。
(14)さすが天才ピアニスト。聴衆はうっとりと聴きほれている。
「うっとり」というのは、快さに浸ってわれを忘れるさま。あるいは、茫然、気を失うさまを表す。あまりにも素晴らしいピアニストが弾いた美しい曲に、聴衆たちが音楽の世界へ導かれて、われを忘れるほど音楽の美妙を感じている。
最後に擬容語の例を見てみよう。
(15)力泳につぐ力泳。彼はぐんぐんと水をあけて先頭をいく。
「ぐんぐん」は力の加わり方が強く運動の勢いがめざましいようすを表す。水泳するときに、水からの抵抗力がかなり強いため、力を入らないと、なかなか前進できない。特に競技する場合、スピードが要求され、より強く力が求められる。
(16)あんまりいい天気なので、ふらりと散歩に出てみた。
「ふらりと」は何の気もなしに、出て行ったり現れたりするさま。仕事のない週末など、特に予定も入ってないから、何気ない散歩をするようす。
(17)病人は時々意識がぼうっとして、話かけてもわからないことがある。
「ぼうっと」の意味は、はっきりした意志、意図、意識などがうすく、ぼんやりしているさま。患者は病気、怪我によって、意識が薄くなるケースが少なくない。そのようなときに、ぼんやりした状態を「ぼうっと」という擬容語で表す。

ところで、同じ形式が擬音語にも擬態語にもなる場合もある。例えば、「どんどん」というオノマトペは、「太鼓をどんどん叩く」というときには太鼓というものの音を表す擬音語であるが、「英語がどんどん上手になる」という文では、物事の様子を表す擬態語になる。また、「ごろごろ」という語は、「雷がごろごろ鳴る」の場合は擬音語であり、「日曜日に家でごろごろしている」の場合は擬容語になる。このように、一つの語がたくさんの意味と用法を持つことがあるというのも日本語のオノマトペの特徴だと言える。