关键词:御法事 留守番 団子
ある日、和尚さんは、御法事に呼ばれて行って、小僧が一人でお留守番をしていました。お経を読みながら、うとうと居眠りをしていますと、玄関で、「ごめん下さい。」 と人の呼ぶ声がしました。小僧があわてて、目をこすりこすり、行ってみますと、お隣のおばあさんが、大きなふろしき包みを持って来て、「おひがんでございますから、どうぞこれを和尚さんに上げて下さい。」 といって、置いて行きました。小僧はふろしき包みを持ち上げてみますと、中から温かそうな湯気が立って、ぷんとおいしそうな匂いがしました。小僧は、「ははあ、おひがんでお団子をこしらえて持って来たのだな。これを和尚さんにこのまま渡してしまえば、どうせけちんぼで欲ばりの和尚さんのことだから、みんな自分で食べてしまって、一つもくれないにきまっている。よしよし、ちょうどいい、ねむけざましに食べてやれ。」 と、こう独り言をいいながら、ふろしき包みをほどくと、大きなお重箱にいっぱい、おいしそうなお団子がつまっていました。小僧はにこにこしながら、お団子をほおばって、もう一つ、もう一つと、食べるうちに、とうとうお重箱にいっぱいのお団子を、きれいに食べてしまいました。食べてしまって、小僧ははじめて気がついたように、 「ああ、しまった。和尚さんが帰って来たらどうしよう。」 と、困ってべそをかきました。するうち、ふと何か思いついたとみえて、いきなりお重箱をかかえて、本堂へ駆け出して行きました。そして御本尊の阿弥陀さまのお口のまわりに、重箱のふちにたまったあんこを、指でかきよせては、こてこてとぬりつけました。そして重箱を阿弥陀さまの前に置いて、部屋に帰って来て、知らん顔をしてお経を読んでいました。 しばらくすると、和尚さんは帰って来て、小僧に、 「留守にだれも来なかったか。」 とたずねました。 「お隣のおばあさんが、お重箱を持って来ました。おひがんだから和尚さんに上げて下さいといいました。」 と、小僧は答えました。