志贺直哉的名篇,节选。
「菜の花と小娘」  志賀直哉 ある晴れた静かな春の日の午後でした。一人の小娘が山で枯れ枝を拾っていました。やがて、夕日が新緑の薄い木の葉を透かして、赤々と見られる頃になると、小娘は集めた枯れ枝を小さい草原に持ち出して、そこで自分の背負ってきた目籠に詰めはじめました。 ふと、小娘は誰かに自分が呼ばれたような気がしました。「ええ?」小娘は思わずそう言って、その辺を見廻しましたが、そこには誰の姿も見えませんでした。 「私を呼ぶのは誰?」小娘はもう一度大きいな声でこう言ってみましたが、やはり答える者はありませんでした。 小娘は二三度そんな気がして、初めて気がつくと、それは雑草の中からただ一本、僅かに首を差し出している小さい菜の花でした。小娘は頭にかぶっていた手ぬぐいで、顔の汗を拭きながら、 「お前、こんな所で、よく淋しくないね」と言いました。 「淋しいわ」と菜の花は悲しげに答えました。「そんならなぜ来たのさ?」 小娘は叱りでもするような調子で言いました。菜の花は「雲雀の胸毛についてきた種が、ここで凍れたのよ、困るわ」 と悲しげに答えました。そして「どうか私を仲間の多いふもとの村へ連れて行ってください」と頼みました。小娘は可哀相に思いました。小娘は菜の花の願いを叶えてやろうと考えました。そして静かにそれを根から抜いてやりました。そしてそれを手に持って、山道を村のほうへと下っていきました。