私達の暮らしを楽しく彩ってくれるテレビドラマ。時代を映す鏡でもあるテレビドラマで、「食」はどのように描かれてきたのでしょうか。印象的だったドラマの食シーンにスポットをあて、当時の暮らしや社会情勢とともに変化し続ける「食」を、作家・生活史研究家の阿古真理さんに独自の目線で語っていただきました。

电视剧为我们的生活增添了欢乐的色彩,作为一面反映时代的镜子,电视剧是如何描绘“美食”的呢?以给人留下深刻印象的电视剧饮食场景为焦点,作家兼生活史研究家的阿古真理以独特的视角讲述了与当时的生活和社会形势一起不断变化的“美食”。

「食」がドラマの主役になったのはいつから?

“吃”是从什么时候开始成为电视剧主角的?

ドラマの歴史を振り返ってみると、70年代はホームドラマ、80年代は恋愛ドラマ、90年代はOLのお仕事ドラマが人気を集めていて、今のように「食」が中心のドラマはほとんどありませんでした。

回顾电视剧的历史,70年代家庭剧、80年代恋爱剧、90年代OL的工作剧都很受欢迎,但几乎没有像现在这样以“美食”为中心的电视剧。

食卓風景や料理は出てきますが、料理そのものがアップで映し出されることは少ないし、そもそも料理にスポットをあてる必要もなかったのです。視聴者は登場人物たちが何を食べているか、どう作るかということに関心はなく、それよりも大事なのは人間関係。食は脇役の存在だったんです。

虽然会出现餐桌布景和料理,但很少出现料理本身的特写,而且原本就没有必要将食物作为重点。观众并不关心登场人物吃了什么、做了什么,重要的是人际关系。食物只是配角一样的存在。

《奇迹餐厅》

といっても、料理人やシェフ、レストランを扱う「お仕事としての食ドラマ」は放送されていました。90年代は三谷幸喜さん脚本の『王様のレストラン』(1995/フジテレビ系)や中居正広さん主演の『味いちもんめ』(1995/テレビ朝日系)が放送されており、その後の『ランチの女王』(2002/フジテレビ系)や『バンビ~ノ!』(2007/日本テレビ系)、『ハングリー』(2012/関西テレビ・フジテレビ系)、『天皇の料理番』(2015年版/TBS系)もその流れにあると思います。

话虽如此,讲述料理人、厨师、餐厅的“职业美食剧”依旧在播出。90年代,三谷幸喜编剧的《奇迹餐厅》(1995年,富士电视台)和中居正广主演的《厨艺小天王》(1995年,朝日电视台)播出,之后的《午餐女王》(2002年,富士电视台)和《料理新鲜人》(2007年/日本电视台)、《饥饿》(2012年/关西电视台·富士电视台)、《天皇的料理人》(2015年版/TBS电视台)都是这种趋势。

《料理新鲜人》

《天皇的料理人》

料理人の話なので当然料理は登場しますが、どちらかというと料理人のプロとしての技術や人間ドラマが中心でした。それが2000年代以降は、料理が主役だったり、世相を反映させたり、ドラマ内のキーポイントのひとつになっている作品が増えてきます。

因为是厨师的故事,自然会有料理的出现,但总的来说是以厨师的专业技术和人性为中心。但到了2000年以后,以料理为主角、反映世态、成为电视剧中的关键之一的作品越来越多。

2000年代は癒しを求めた時代。「食」が欠かせない要素に

2000年是追求治愈的时代。“美食”成为不可或缺的要素

食が注目されはじめたころのドラマの中でも特に印象に残っているのが、2003年に日本テレビ系で放送された『すいか』(日本テレビ系)というドラマです。生きることに不器用な人物たちが同じ下宿屋で暮らし、それぞれが抱える問題を解決しながら、次第に仲良くなっていくというストーリー。そこでみんなが集まるきっかけが「食」なんです。

在美食刚开始受到关注的电视剧中,给人留下深刻印象的是2003年日本电视台播放的《西瓜》(日本电视台)。讲述了一群不擅长生存的角色同住一间出租屋,一边解决各自的问题,一边逐渐成为好朋友的故事。其中使大家聚在一起的契机就是“美食”。

《西瓜》

ちょうどその頃は、“癒し系”という言葉が流行しはじめていた時期でもありました。90年代にバブルが崩壊し、阪神・淡路大震災や地下鉄サリン事件が起こり、山一証券も経営破綻。若者たちが就職氷河期を迎えて社会がギスギスしていた時代です。人間関係に悩む人も増えていました。

那个时期“治愈系”这个词正好开始流行。90年代泡沫经济崩溃,阪神淡路大地震和东京地铁沙林毒气事件发生,山一证券也宣布破产。那是年轻人迎来就业冰河期,社会僵化的时代,苦于人际关系的人也越来越多。

そんな世相を反映するように「人生をやり直したい」「人生を変えるにはどうしたらいいか」ということがこの時代のドラマではよく描かれるようになり、そこに癒やしの要素として「食」が重要な役割を果たすようになっていきました。

这种反映世态,“人生想要重新来过”“怎样才能改变人生”成为了这个时代的电视剧常常描绘的题材,而其中作为治愈系要素的“美食”发挥了重要作用。

「食」というのは人間が生きる基本です。誰かが作ってくれた、誰かと一緒に食べた、というふうに「食」は人と人を結びつける鍵でもあります。『すいか』では絆がギョウザを焼くことで、下宿内の結束は強まりました。

“美食”是人类生存的根本。像是谁给你做的、和谁一起吃的,“美食”是将人们紧密相连的关键。在《西瓜》中,因为绊做的烤饺子,屋檐下的人们变得更团结了。

2010年代、食ドラマの歴史を変えた『孤独のグルメ』の登場

2010年代,改变饮食剧历史的《孤独的美食家》登场

2010年代になると、食シーンは癒しや人との結びつきを表す要素だけではなくなってきます。大きかったのは『孤独のグルメ』(テレビ東京系)の存在でしょう。2012年放送開始から9年が経った今も評判が高く、7月9日からはシーズン9が放送されています。

到了10年代,饮食场景不再只是表达治愈和人与人之间联系的元素。其中最重要的存在就是《孤独的美食家》(东京电视台)吧。从2012年开始播出到现在,9年过去了,依旧好评如潮,7月9日开始播出了第9季。

放送時間帯は午前0時台と深夜なのに、主人公の五郎を演じた松重豊の食べる場面は食欲をそそり、“飯テロ番組”との異名を取った作品です。 このドラマは「食べること」そのものにフィーチャーした最初のドラマだったと思います。さらに新しかった点は、人々に「ひとり飯は幸せなもの」という発見をさせたこと。それまでは、ひとり飯の定番と言えばささっと済ませられるチェーン店などが主流でした。このドラマの登場で、くつろげる店内で食べる洋食や個人経営の中華屋など、グルメな店でのひとり飯を楽しむ人々が増えたのです。人と食事しながらコミュニケーションも楽しむ……ではなく、ひとりで食べることの楽しさを徹底的に描いたのが、この作品の特筆するべきところです。

播出的时间段明明在凌晨12点和深夜,但是饰演主人公五郎的松重丰吃饭的场景总会勾起人的食欲,所以这部剧又别名“恐怖美食节目”。这部电视剧是第一部以“吃”本身为主题的电视剧。更新颖的一点是,它让人们发现了“一个人吃饭是幸福的”。在此之前,一个人吃饭的主流选择都是去那些能够快速搞定吃饭问题的连锁店。但因为这部电视剧的出现,去氛围轻松的店内享用西餐,和在个体经营的中餐馆等美食店里享受一人食的人增加了。值得一提的是,这部影片彻底描绘了独自吃饭的乐趣,而不是与他人一起吃饭,享受交流。

このドラマのヒットの影響で、2015年頃から食べることに特化した深夜時間のドラマが増えていきました。

受这部电视剧大热的影响,从2015年开始,以吃为特色的深夜剧开始增加。

家庭での家事負担を見つめ直すきっかけに

成为重新审视家务负担的契机

2000年代からはインターネットの発達によって、人々のコミュニケーションの仕方にも大きな変化が生まれましたが、なかでも2010年代半ばから普及し始めたスマートフォンは、料理の作り方にも影響を与えました。レシピサイトも続々登場し、自分でレシピを調べて、スマートフォンを見ながら料理を楽しめるようになったのです。今のような料理のシーンが話題になるドラマが多く作られるようになった理由には、そんな時代背景もあるのかもしれません。

从2000年开始,随着互联网的发展,人们的交流方式也发生了巨大的变化。尤其是2010年中期智能手机的普及对料理的制作方法也产生了影响。菜谱网站陆续出现,人们可以在家自己查菜谱,一边看着手机一边享受做菜的乐趣。或许是由于这样的时代背景,以这种做饭场景为话题的电视剧才越来越多。

外食が中心だった食ドラマが「家での料理」にシフトしていく中で、話題になったドラマが『逃げるは恥だが役に立つ』(2016/TBS系)と『私の家政夫ナギサさん』(2020/TBS系)です。

在以外出就餐为中心的饮食剧逐渐向“家庭料理”转变的过程中,《逃避虽可耻但有用》(2016/TBS台)和《我的家政夫渚先生》(2020/TBS台)成为了话题剧。

《逃避虽可耻但有用》

《我的家政夫渚先生》

また、『逃げ恥』も『ナギサさん』も家政婦/家政夫の話ですが、この時期はちょうど日本でフェミニズム運動が起こった時期でもあります。書籍もフェミニズムやジェンダーをテーマにしたものが多く出版されるようになり、『考えない台所』(2015/サンクチュアリ出版)や『家事のしすぎが日本を滅ぼす』(2017/光文社)も話題になりました。女性差別を解消したいというムーブメントが巻き起こっている中でのドラマだったので、とても印象に残っています。

另外,《逃耻》和《我的家政夫渚先生》都是关于家庭主妇或家庭主夫的故事,这一时期正值日本女权运动兴起,出版的书籍也多以女权主义和性别平等为主题,《不思考厨房》(2015年,自然出版社)和《让日本毁灭的<过度家务>》(2017年,光文社)也成为了话题。因为这些电视剧都是在女性平权运动兴起的背景下产生的,所以给人留下了深刻的印象。

『逃げ恥』の作中では新垣結衣さん演じる主人公・森山みくりの「結婚すれば給料を払わずに私をタダで使えるから合理的。そういうことですよね?(中略)それは、好きの搾取です!」というセリフがあり、フェミニズムに興味がない人も家事を女性がやることに対して疑問を持ったり、家事に給料が払われていないことに気づく人が増えたのもこのドラマの貢献だったと思います。

在《逃耻》中,新垣结衣饰演的主人公森山美栗所说的台词:“因为结婚的话就可以不付工资让我白干活,所以很合理。是这个意思吧?(中略)这是‘爱’的剥削!”让即使对女权运动不感兴趣的人也对让女性做家务产生了疑问,意识到做家务却没有工资这个问题的人不断增加,我想这也是这部电视剧的贡献吧。

もうひとつ『ナギサさん』では家政“夫”であるということのほかに、印象的だったのが主人公の母親の存在。専業主婦になったけど、家事が苦手で料理もうまくないという設定で、そこには女性だからといって料理ができるわけでもないし、やらなければいけないわけでもないというメッセージが込められているような気がします。

在《我的家政夫渚先生》中,除了家庭主“夫”这一角色之外,让人印象深刻的还有主人公的母亲。虽然成为了全职主妇,但是不擅长做家务也不擅长做饭的设定,让人感受到电视剧想要向大众传达“并不是女性就一定要会做饭,这也不是女性必须要做的事”这样的信息。

この2つのドラマは「家事は誰がやるのか」というテーマを含んでいて、それまでの「食が癒す」「食が人間関係を構築する」「食べることって幸せ」ということより、もっと社会的な意味を含んだものを描くようになってきました。これが2010年代後半のドラマの特徴といえると思います。

这两部电视剧都以“家务该由谁做”为主题,比起之前的“用美食疗愈”、“美食构筑人际关系”、“吃就是幸福”等话题,展现出了更多具有社会意义的东西。可以说这是2010年代后半期的电视剧的特征。

ドラマは時代を映す鏡。これからも新しい「食ドラマ」が出てくるのを楽しみにしています。

电视剧是反映时代的镜子。期待今后也有新的“美食剧”出现。

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