日语文学作品赏析《川魚料理》
裸男著述の爲に、南郊に籠城して、世間と絶縁すること、幾んど半年に及べり。其の間、何人にも面會せざりき。やつと脱稿して家に歸れば、誰よりも先きに、訪ひ來れるは、夜光命と十口坊と也。つもる話を歩きながらとて、打連れて池袋驛にいたる。『さて何處にか行かむ。池上方面にせむか』、二人答へず。『二子方面にせむか』、二人答へず。『八王子方面にせむか』、二人答へず。『大宮方面にせむか』、二人答へず。『柴又方面にせむか』と云へば、二人手を拍つて喜ぶ。
山手線の電車に乘りて、上野驛に下り、市内電車にて本所押上まで行き、京成電車に乘換へて柴又に至る。帝釋天を一拜し、滾々涌き出づる清水を掬し、堂前に横はれる松を賞し、精巧を極めたる二天門を見上げたるが、敵は本能寺に在り。直ちに去つて川甚に至る。
二 川甚の川魚料理
初夏の天、さまで暑くもなきに、河童の申し子にや、夜光命と十口坊とは、川を見れば、泳がずに居られず。水に臨める一亭に通さるゝより早く、輜重の任をも打忘れて、水に入る。裸男ひとり欄に凭る。一道の小利根川溶々として流る。國府臺、下流に鬱蒼たり。蘆荻風に戰ぎて、行々子鳴きかはす。大帆小帆列を爲して上り來たる。水郷初夏の風致、人をして超世の思ひあらしむ。駄句りて曰く、
三 小岩不動の星下松
□顏を川風に吹かせつゝ、長江の中流を下りて、栗市の渡場に上陸す。國府臺に上れば、掛茶屋の女、左右より呼び迎ふれども、嚢中餘裕なければ、唯□佇立して、葛飾の平田を見渡し、三里の外、凌雲閣や、數百の煙突に代表せられたる東京を望む。臺に接して流るゝ小利根川の上下二三十町の間は、川身を見る。白帆になほ其の見えざる處をも見る。石棺の露出せる處に、里見廣次の墓と題する石塔を訪ひ、總寧寺の境内を過ぎ、右に兵營、左に練兵場を見て、國府臺を下り、市川の村はづれより市川橋を渡り、小岩驛より汽車に乘りて歸ることとしけるが、日なほ高ければ、小利根川の右岸を下ること凡そ十町、善養寺一名小岩不動に立寄りて、
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