日语文学作品赏析《怪異暗闇祭》
「小机源八郎のは剣法の正道ではない。邪道だ。故に免許にはいまだ致されぬが、しかし、一足二身三手四口五眼を逆に行って、彼の眼は天下無敵だ。
師の正兵衛さえ舌を巻いているのであった。
天保九年五月五日の朝。同門の若者、多くは旗本の次男坊達が寄って、小机源八郎を取囲んだ。
「ぜひどうか
「なんでござったかな、敵討なんどと、左様な大事件をお引受け致したか知らん」
「御失念では痛み入る。それ、
「ああ、あの事でござるか」
天保八年五月五日の夜、長沼門下の旗本の若者が六人で、府中の祭に出掛けたのであった。それは
こうした
さて、明くる朝、定めの家に六人集って見ると、六人が六人とも、
「暗闇祭には怪物が出る。まさか神わざとも思われぬが、いかにしても残念。その正体を見届けて、退治て貰わなければ堪忍ならぬ」
六人が六人とも、もとより暗闇の中の事ゆえ、正体を見届けようもなかったが、何者やら知れず前に立ったと思うと、忽ち鼻を切られたのだという。ただそれだけで一同取留めた事実が無かったのだ。
「
「いや確かに人間でござった。心願あって、六所明神の祭礼に六つの鼻を切るという願掛けでも致したのではござるまいか」という説もあった。
「なれども、六人が六人とも切られたところに疑いがござる。こりゃ長沼の道場に遺恨のある者が、六人を見掛けて致したのではござるまいか」という。この説、はなはだ有力となった。
「しかし、まだほかに、鼻を切られた者があったかも知れ申さぬ。ありとすれば
小机源八郎も、これには多少の興味を持たぬではなかったので、
「よろしい。しからば拙者、府中へまかりこし、怪物の正体を見届け、
笑いながら出て行った。
二
江戸より府中までは八里。夕方前に小机源八郎は着いた。
府中はいまさら説くまでもなく、
毎年五月三日には、
源八郎は
「
「ところがお侍様、お祭中はいきの好い魚が仕入れてございます。
「まるで
「はい、みな品川から夜通しで廻りますので。御案内でもござりましょうが、お祭前になりますると、神主様達が揃って品川へお
「そう講釈を聴くと江戸では珍らしくないが、一つ海鰻を焼いて貰って、それから鯒は洗いが好いな。まあその辺で一升つけてくれ」
「一升でございますか」
「いずれ又後もつけて貰う。
「へえへえ」
小机源八郎は長沼の内弟子。言って見れば今の苦学生だ。金は無いのだ。ところが今日は暗闇で旗本六人が鼻をそがれた敵討というので同門から金を集めてくれたので、大分
隣りの腰掛で最前から、一人でちびりちびり、黒鯛の塩焼で飲んでいる
「お武家様、失礼ながら、大分御酒はいけますようで」と声を掛けた。
「いや余計もやらぬが、貧乏世帯の食事道具
「へえ、貧乏世帯の食事道具呑……聴いたことがございませんな。それはどういう呑み方でございますか」
「金持の道具では
「へえ、それでは、まあ茶碗に皿、小鉢、丼鉢、椀があるとして、親子三人暮しに積ったところで、大概知れたもんでございますな。手前でもそれなら頂けそうでございます」
「ところが、拙者は茶碗や皿などは数には入れておらん。いくら貧乏世帯でも鍋釜はあるはず。それまで一杯注いで置いて呑む」
「こいつあ恐れ入りました」
まさか小机源八郎、それ程呑めもしないのだが、
話が面白くなって酒も大分はずんで来た。
「や、拙者は当所の御祭礼は初めてだが、なんでも昨年は、暗闇の間に、余程奇怪な事が行われたと申すが、それはほんの噂に過ぎぬのか。それも本統にあった事かな」
源八郎はこの旅商人が去年の祭にも来ていたというのからして、探りを入れて見たのであった。
旅商人は少し
「旦那のお聴きになったのは、どんな出来事でございましたね」と問い入れた。
「されば、なんでもどこかの侍が数人とも顔面を何者にか知れず傷つけられたと申す事で」と
「や、それは私として、初耳でございますが、私の聴きましたのは、ちっと違いますので」
「どんな話か、肴に聴きたいもんだな」
そう云いつつ、
三
旅商人は
「実は旦那、去年には限りません、毎年この暗闇祭には、怪しい事があるんでございますよ。ですが、それをぱっとさせた日には、忽ちお祭がさびれっちまうので、土地の者は秘し隠しにして居りますがね。昨年のはちっと念入りでございましたよ。女がね、お
「ふむ、それは
「まだほかに何があったか知れませんが、それはただ私達の耳に入らねえだけのことだと思います。今夜もきっと何かあるだろうと思われますよ。何しろ諸方から大勢人が入込んで居りますから……それに、昨年は、
「大名のお部屋が泊っていても、矢張神輿渡御の刻限には火を消さずばなるまいな」
「それはもうどちら様がお泊りでも、火を
源八郎は考えた。六人の旗本の鼻を削ったのと、十数人の女の臀部を斬ったのと、又大名の
この時、旅商人は急に心づいた様子で、
「や、御武家様、私に限らず今夜はもうとてもこの
勘定を済ましてせっせと先に行ってしまった。源八郎はその旅商人を、どうも怪しいと
道中の
すりは一種特異の刃物を掌中に持っている。それで
あいつ
まだ神輿出御の刻限には間があったので、源八郎は群集を避けて、本社の背後へと廻って見た。
有名な
源八郎にはしかし、少しもそれが暗くないのであった。
小机源八郎は、武州
野獣の眼が暗夜に輝くという、そこまでには至らずとも、とにかく普通の者に比べると、薄々ながら見えるのであった。
四
何心なく源八郎は裏山の方を透して見た。すると大きな大きな
気になるので
いよいよ以て怪しいと思って、源八郎は忍び足に近寄ろうとすると、旅商人はすでにそれと感付いたらしく、立上って逃げようとした。
「おいおい、お前はまだここにいたんだな。布田の方へは行かなかったのか」
源八郎は声を掛けた。
「おやっ」
少からず旅商人は驚いた。
「旦那は、能くこの暗いのに、私ということが分りましたね」
「お前は又拙者が忍んで近寄ったのに、能く分ったの」
向うも驚いたが、こちらでも驚いたのであった。
「へえ、私は、昼間より、夜分の方が眼が能く見えますんで」
「なに、その方も夜目が利くのか。拙者も実は夜目が利くのだ」
「おや、旦那も夜目がねぇ、へえ、そうでございますかい。じゃあ矢張、お稼ぎになるんですね」
「稼ぐとは何を」
「へへへへ」
「何を稼ぐと申すのか」
「なに、ちょっと、その」
「拙者を
「まあ、その、ちょっとね。へへへへ、夜目が利くと
「するとその方は、確かに泥棒だな」
「御免なすって下さいまし。隠しゃぁ致しません。全く私は花婿仲間でございます」
「花婿仲間とはなんだ」
「
「江戸の者は泥棒まで
「実は旦那、稼ぐというのは二の次で、遊び半分、まあ毎年来て居ります。私ばかりじゃぁございません。仲間の者がみな腕試しやら眼試しのために」
「腕試しというのはあるが、眼試しとはなんだ」
「この泥棒稼業に一番大事なのは眼でございます。暗闇で物を見るようにならなければ、好い稼ぎができません。それで泥棒、と云っても、それぞれ筋があるのでございますが、私達の仲間の古老からみな教わったのでございますが、
「それで今、お前の仲間は」
「仲間は日本国中にどのくらいあるか知れませんが、関東だけでざっと五百二十人ばかり、でも本統に夜目の利く
「その五人というのは……」
「そう申しては口幅っとうございますが、先ずこう申す五郎助七三郎が筆頭で、それから
「変な名だな。それがみな、暗闇祭へ来たのか」
「揃って来たこともありましたが、近在の百姓衆の
「去年も五人揃って参ったか」
「それが旦那、それからがお話でございます。夜泣きの半次は御用になりまして、まだ御牢内に居ります。煙の与兵衛は上方へ行って居りまして、一昨年には節穴の長四郎と、逆ずり金蔵と、私と、三人連れで参りましたがね。その時に、えらい目に
五
奇怪極まる五郎助七三郎の話に、小机源八郎はすっかり聴き惚れてしまったのであった。
「どんな目に遭ったのか」
五郎助七三郎は少しく興奮して、
「あんなのを天狗とでも云いましょうか。夜目の利く私達よりも、もっと夜目の利く山伏風の大男がね。三人で、ちょうどこの裏山で、抜き取った品物を出し合って勘定をしていたところへ、不意に現われて、金剛杖のような物で滅茶滅茶です。三人もじっとして打たれるようなのじゃあありません。
「どんな準備をして」
「目つぶしです。目つぶしを仕入れて、それを叩きつけてから
「向うから目潰しを投げたのか」
「いいえ、指を眼の中へ突込みやあがったので」
「
「とうとう私一人になってしまいました。今年は口惜しいから、どうしても私一人で
「去年も矢張山伏姿か」
「左様でございました」
「そいつではないか。去年、武家の顔面を傷つけたのは……」
「さあそうかも知れません」
「
「多分そうかも知れませんな」
「七三郎とやら、お前、拙者に隠してはいかんぞ。お前と長四郎とで、旗本六人の鼻の
「いや隠しません。隠すくらいなら初めからなんにも云いません。や、白状ついでだから一つは云いますが、本陣へ忍び込んで、大名のお部屋様の小指を切って逃げたのは私です。その女は私の
「じゃあ全く、その方、旗本の鼻や、女の臀を切ったのではないのだな」
「前には男女の髪は切りましたが、昨年は、お部屋様のほかにはなんにも致しませんでございました」
「そうか。実は拙者……」かくかくの次第と、旗本六人の敵討に来たことを物語った。
五郎助七三郎は喜んだ。
「や、長沼先生の御高弟、小机先生でございましたか。そういうことならぜひどうかお力添えを願います。お旗本の鼻を削ったのも、怪しい山伏に相違ございませんぜ」
この時大欅の枝の上で、
「あっはっはっはっはっ」と高笑いがした。
さすがの小机源八郎もびっくりした。五郎助七三郎などは飛上って驚いた。
透して見るとそこに人が登っていた。
「なんだ、そんな所にいて、我々の話を黙って聴いていたのか」と源八郎は呼ばわった。
「夜目が利くの、
「ぐずぐず云わずとここへ降りて来い」
「降りても好い。だが、貴様達がそこにいては降りられない」
「こわくって降りられんのか」
「いや、そうじゃあない。俺は一足飛びにそこへ飛んで降りるのだが、ちょうど足場の好い所へ二人並んでいやあがる。邪魔だ」
「馬鹿を云うな。二人の前でも、後でも、右でも、左でも、空地はある。どちらへでも勝手に飛降りろ」
「だから貴様等の夜目は役に立たないんだ。まだ暗闇が見えるというところまでに達して居らない。貴様達の後には犬の
これには二人とも驚いた。
六
「さあ、飛ぶぞ。
そう云いながら樹上の怪山伏は、一気に二丈五六尺の高さから飛降りた。
「えいっ」
待構えていた小机源八郎は飛降りてまだ立直らないところを、度胆を抜くつもりで刀の
「はっはっはっ」
前に飛んだのは、大きな
何しろ大男だ。顔までは能く分らなかったが、丈は雲を突くばかり、手には金剛杖を持っていた。
「生意気な山伏
「いくらでも受けるが、俺の姿が見えるかっ」と山伏は
「何っ」
一刀両断は神影流の第一義。これ、実の実たる剣法であったのを、見事に身を交わされて、虚の虚とさせられた。
「おのれっ」
二度の打込は虚の実。二段の剣法。正面急転右替の胴切と出たところを、巧みに金剛杖で受留められた。
杖に鉄条でも入っているのか、その杖さえも切落せぬので、源八郎もこれは手ごわいと、先ず気を呑まれた。
源八郎危しと見て、五郎勘七三郎は、種ヶ島の短銃を取出し……までは、好かったが、その時代のは点火式で、火打石で火縄へ火を付けて、その又火縄で口火へ付けるという、二重三重の手間の掛かる間に、金剛杖でぐわんと打たれて、手に持っていた火打鎌が、どこへ飛んだか、夜目自慢の七三郎も、こうなると
鋭く斬込んで来る源八郎を扱いながら、その
「もう止せ。とても俺には敵うまい。ぐずぐずしていると貴様の命はなくなるぞ。や、それでは少し借しい。それに貴様達は考え違いをしておる。俺は旗本六人の鼻も切らねば、十数名の女の臀部も切らぬ」
「えっ」
「それについて実は俺も不思議に思っているところなんだ。さあ
止めるも止めぬもない。小机源八郎すでにへとへとで、ただ青眼に構えているだけで、四方八方隙間だらけだ。
「うーむ」
「唸らなくっても好い。まあ木の根にでも腰を掛けろ。おっとそこの木の根には毛虫が這ってる。貴様には見えまいが、俺には見える」
「何、毛虫がいたって構わん」
源八郎、
七
「一体、貴公は何者だ」と小机源八郎は、ようやく息を納めてから問うた。
「俺は本当の天狗だ。天狗にもいろいろあるが、俺のは正札付きの天狗だ。ただし昔話にある
なる程天狗だ。大天狗だ。
「それがどうして一昨年と昨年と、二年つづきで七三郎の仲間を、半殺しの目に遭わされたか」
「当り前じゃあないか。
「それでは、旗本六人の鼻は」
「や、それは本統に知らん。俺は全くそんな事はしらない。女の臀部を切ったのも
「すると、ほかにあるんだな。何者だろうか」
「や、面白い。どうだ、源八郎。貴様のようなのでも、とにかく夜目の利く一人だ。すりの野郎も先ず先ず夜目が少しは見える。今夜はこの三人で暗闇の中を見廻って、左様な悪戯をする者を引捕え、以来手を出させぬように致してやろうではないか」
「それは結構。三人で暗闇の中を探して見よう」
「じゃあ、そのすりを活かしてやろう」
大竜院泰雲が、七三郎に活を一つ入れた。
「うーむ」と七三郎は唸り出した。
「しっかりしろっ」と源八郎が呼ばわった。
「もうたくさんです」
「安心しろ、もう撲らん」
ここで三人が約束して、三方に散って、暗闇祭の中を縫い歩き、鼻切り臀切りの犯人を捕えたら、一先ずこの大欅の根下まで連れて来るということにした。
「誰が捕えるか、眼力くらべだ。敗けた者に酒を
「や、それは御免だ。眼力も眼力だが、もし運が悪ければ見付けられない。俺が敗けたとなると貧乏山伏だから、酒代は出せぬ。そこで酒はすりが人の金を取ってたくさん持っているだろうから、誰が見付けたに関らず、七三郎、貴様
こうして、遺伝性で夜目の利く大竜院泰雲。奇蹟的に夜目の利く小机源八郎。練習の功で夜目の利く五郎助七三郎。この三人は社後の林を出て、思い思いに三方に散った。
八
いよいよ暗闇祭の時は来た。神宮
七基は二の鳥居前より甲州街道の大路を西に渡り、一基は
三人は三人互いに姿を
* * *
くさくさの式も首尾好く終って
「又遣られたっ」
「今年は耳を切られた者が三人」
「鼻をそがれたのも五六人あるそうな」
「女は相変らずお臀だそうな」
群集の中で、あちらこちらに怪事件を語り伝えるのであった。
* * *
社後の裏山大欅の下に、真先に帰って来たのは怪山伏泰雲であった。はなはだ機嫌が悪く、ぶつぶつ
そこへ怪剣士小机源八郎が、ぼんやりした顔で帰って来た。
「やあお前もしけか」
「どうも見付からなかった」
「しかし、矢張、やられた者があるようだな」
「我々で見廻って発見されないのだから、すりの野郎にはとても駄目だろう。今にしょげながら帰って来るよ」
そう話し合っているところへ、
「はっはっはっ曲者が見付からないので、埋合せに美人を生捕って来たな。酒の酌でもさせようというのであろうが、それはよろしくない。帰してやれ。おや、ぐったりしているじゃあないか。気絶しているのか」
七三郎は黙ってそこへ娘を下した。そうして片手の平で鼻を一つ
「さあどうだ。二人とも
「おいおい、血迷っちゃいかん。切られた娘を連れて来たって何になるか。切った奴を連れて来なけりゃあ駄目だ」と源八郎が笑いながら云った。
「ところがこの娘が今夜も遣ったんで、去年のも多分そうでしょう」
「えっ」
「お前さん達は男ばかり目を付けて廻ったから逃がしたんで、あっしは女に目を付けたんで奴と分った。当身で気絶さして、引担いで来たんです。御覧なさい、着物に血が着いている。手にも着いてるでしょう。帯の間に
「うーむ」
今度は大竜院泰雲が唸り出した。
気絶している娘を三人で介抱して、蘇生さして、
最初は泣いてばかりいて、どうしても白状しなかったが、絶対にこの事実は秘密にしてやるという条件が
娘は
神楽殿の舞姫として清浄なる役目を勤めていたのであったが、五年前の暗闇祭の夜に、荒縄で腹巻した神輿かつぎの若者十数人のために、乳房銀杏の蔭へ引きずられて行き、聴くに忍びぬ悪口雑言に、侮辱の極みを浴びせられたのであった。
余りの無念
既に
稲代はかかる悲運に
復讐、それは誰に向って遂げようもない。悲劇中の悲劇であった。
三年の座敷牢。土蔵の中の暗さに馴れて、夜目が恐しく利くようになったのを幸、去年の暗闇祭に紛れて、男の鼻をそぎ、女の臀を切ったのであった。
そのために非常な快感を覚えたのであった。今年もまたそれを企てたのであった。これでは矢張
不思議な事実を聴いて三人とも、娘稲代に同情して、好いか悪いか分らなかった。
「これではなるほど、犯人が分らなかったわけだ」と源八郎は云った。
「それを見付けたのは五郎助七三郎だ。や、いくら夜目が利くからって、お前さん達は本統の目先が利かねえのだから駄目の皮だ。そこへ行くと矢張江戸っ子でなくっちゃあ通用しねえ。この犯人を女と睨んだところが全く気の利いているところなんだ」と無闇に七三郎威張り出した。
「なんだ。貴様、すりの癖に、生意気な事を云うなっ」と泰雲が
「いや約束だ。酒は私が奢る。これも約束だ。見付けた者が威張れるだけ威張って、後の二人が地面に手を
「小机の代理に俺が一つ余計に
「なんだって好い。打ちせえすりゃあ、講釈で聴いて知っている
大正の現代人には馬鹿馬鹿しく思われる事も、この時代には大概の場合にも茶番気が付いて廻っていて、それをしかも滑稽にせず、真面目に遣って
泰雲、頭巾を取って、頭を出すと、七三郎、拳骨の先に唾を付けて力一杯、こつん! こつん!
「これで胸がさっぱりした」
この変な敵討をよそに、小机源八郎は
「や、拙者はこの稲代殿を嫁に貰い受けたい」と云い出した。
これには泰雲も七三郎もびっくりした。余りにそれは突然に過ぎたからであった。源八郎は単に稲代の境遇に同情したばかりではないのであった。泰雲の夜目の利くのが代々であるというのから考えて夜目の利く男と、同じく夜目の利く女との相婚の結果、その子により以上夜目を利かして見たいという、そうした腹から出たのであった。
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