日语文学作品赏析《教訓談》
作者:芥川龍之介
来源:青空文库
2010-01-06 00:00
あなたはこんな話を聞いたことがありますか? 人間が人間の肉を食つた話を。いえ、ロシヤの飢饉 の話ではありません。日本の話、――ずつと昔の日本の話です。食つたのは爺 さんですし、食はれたのは婆 さんです。
どうして食つたと云ふのですか? それは狸 の悪企 みです。婆さんを殺した古狸 はその婆さんに化 けた上狸の肉を食はせる代りに婆さんの肉を食はせたのです。
あなたも勿論知つてゐるでせう。ええ、あの古いお伽噺 です。かちかち山の話です。おや、あなたは笑つてゐますね。あれは恐ろしい話ですよ。夫は妻の肉を食つたのです。それも一匹の獣 の為に、――こんな恐ろしい話があるでせうか?
いや恐ろしいばかりではありません。あれは巧妙な教訓談です。我々もうつかりしてゐると、人間の肉を食ひかねません。我々の内にある獣の為に。
しかし最後は幸福です。狸は兎に亡されるのですから。
火になつた焚 き木を負 つてゐる狸、泥舟 と共に溺 れる狸、――あの狸の死を御覧なさい。狸を亡すのは兎です。やはり一匹の獣です。この位意味の深い話があるでせうか?
わたしはあの話を思ひ出す度に、何か荘厳な気がするのです。獣は獣の為に亡され、其処 に人間は栄えました。ツアラトストラでもこの話を聞けば、きつと微笑を浮べたでせう。
あなたはまだ笑つてゐますね。お笑ひなさい。お笑ひなさい。あなたの耳は狸の耳なのでせう。
どうして食つたと云ふのですか? それは
あなたも勿論知つてゐるでせう。ええ、あの古いお
いや恐ろしいばかりではありません。あれは巧妙な教訓談です。我々もうつかりしてゐると、人間の肉を食ひかねません。我々の内にある獣の為に。
しかし最後は幸福です。狸は兎に亡されるのですから。
火になつた
わたしはあの話を思ひ出す度に、何か荘厳な気がするのです。獣は獣の為に亡され、
あなたはまだ笑つてゐますね。お笑ひなさい。お笑ひなさい。あなたの耳は狸の耳なのでせう。
(大正十一年十二月)
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