雪穂は篠塚の父親が経営する『シノヅカ製薬』を訪ね
睡眠薬を出してもらっていた。
「江利子の写真が焼きついちゃって・・・最近眠れなくて。」
「そう。」
「なんか、この間から変じゃありませんか?」
「俺も唐沢と同じような状態だし。
 君を見ていると思い出すからさ。」
「私を見て?」
「そりゃあそうでしょ。
 俺の知っている唯一の関係者なんだから。」
「え・・・。関係者なんですか、私。」
「事件を知っているっていう意味でね。」
「あの・・・どうかしたんですか?」
「ん?ああ、じゃあ、
 それ、バレないようにしてよ。」
「ありがとうございます。」
雪穂は立ち去る篠塚の背中を見つめ・・・。

 

友彦と湯船につかりながら、銭湯に描かれた絵を見つめる亮司。
「どうしたの?」友彦が聞く。
「夜なのに、昼なんだなー。」
突然友彦は片手を挙げて亮司の前に立ちはだかる。
「俺の人生は、白夜の中を歩いているようなもんだからな。」
「・・・くだらねーよ、お前!」そう言いながらも嬉しそうな亮司だった。

「もう少し粘ってみようと思った。
 いいじゃないか。たかられたって。
 いいじゃないか。泥沼だって。
 そんな自分を笑うことが俺にはまだ出来るんだから。
 もう少し歩いてみよう。
 終わらぬ白夜はきっとない。」

「もう終わるからね・・・亮・・・。」
雪穂は庭の手入れをしながらそう呟き、花鋏を握り締める。

友達の優しさに、芽生えた殺意を消しとめた亮司。
亮司の為にと、新たな殺意に手を染めようとする雪穂・・・。

銀のハサミを暫く見つめたあと、ベルトに付けたケースにしまう亮司。
榎本の仲間が、榎本のルートに手入れが入ると知らせにくる。
亮司はパソコンのデータを全て消去し、松浦にもそのことを知らせようと
電話を入れる。
松浦が携帯を出ようとしたとき、弥生子が自分を待っているのに気付く。
微笑みあう二人。
「どうぞ。」
松浦に言われ、弥生子が部屋に入っていく。

その様子を古賀が見張っていた。

雪穂は花鋏をカバンに入れ・・・。

「よくわかったね、ここ。」と松浦。
「買い取りたいの。」と弥生子。
「何を?」
「決まってるでしょう。
 あんた昔盗んでった写真と、そのネガ。」
「もう、人聞き悪いなー。
 奥さんがさ、ダンナの恥になるから処分してって俺に頼んだんじゃない。」
「あんたアレであの子のこと脅してるでしょ!」
「言われたとおり処分しましたって。」
弥生子は部屋の中を探し始める。
「ねーって。
 ねーよ!
 ねーって言ってんだろうっ!」
弥生子は引き出しの中からフィルムケースを見つけ出す。
それを手に部屋を出ようとする弥生子を捕まえ松浦が言う。
「もういいじゃん。あんなめんどくさいこと。」
「私全部しゃべってもいいのよ!
 あの子だって、こんな生き方させられるんなら、刑務所行った方が
 マシよ!」
「別に、俺がそんなことさせたわけじゃねーって。」
松浦が弥生子の胸元に手を入れようとする。松浦から逃れようとする弥生子。
そこへ古賀がやって来る。
「どういうことだ!はめたのかよ!?」激怒する松浦。
「知らないわよ!」慌てる弥生子。
「婦女暴行の現行犯で!」
松浦に手錠をかけようとする古賀。
台所に逃げ込んだ松浦は振り向きざま包丁で古賀を刺した。

その頃、署にいた笹垣は、七味が落ちたことに嫌な予感を覚える。

「松浦・・・暴行、傷害の、現行犯で、逮捕・・・」
古賀はその場に倒れてしまう。
震える手で包丁を握り締める松浦は、古賀の上に馬乗りになり、
「俺、何も悪くないねー。
 そうだよねー。」
そう呟きながら、何度も包丁を古賀に突き刺した。

恐怖に怯え震える弥生子。そこに亮司がやってきた。
「どういうこと?」
「写真取り戻そうとして・・・。」
母親のはだけた胸に気付く亮司。
幼い頃、父の目を盗んで愛し合っていた弥生子と松浦に
父の帰宅を知らせるよう、戸をノックした自分を思い出す。
「違う。そうじゃないの!亮司、聞いて!亮司。」
弥生子が慌てて言うが、亮司の耳には届かない。
亮司は振り返った松浦の胸に飛び込んだ!手には挟みが握られていた・・・。
「マジ・・・なんで・・・」
「ずっと・・・俺ホントはずっと・・・
 こうしたかった。
 あんた来てからおかしくなったんだよ、うち。 
 親も・・・俺も・・・。
 死んで・・・もう・・・。
 あんたなんか、いない方が良かったんだよ。」
「俺さ・・・俺・・・おまえが親父刺したときさ、
 こいつオレに似てるって思った・・・。
 だからさ・・・誰にも言わなかったじゃない、あの事だけはっ!
 もう・・・ひどいよ、亮ちゃん・・・。」
松浦はそう言い、亮司の方を抱きしめる。
「あれ・・・」松浦が指差す先に飾られた空の写真。
「綺麗だろ・・・。パッチモンでも・・・。
 捨てたもんじゃないよ・・・。」
亮司の肩で息を引き取る松浦。亮司はそっと目を閉じた。

「亮司・・・あんた・・・。」
「松浦がこいつ殺したんだって、警察にはそれだけ言ってくれるかな。」
「それでいいの?
 ほんとに、それでいいの?
 そうやって、ずっと・・・」
弥生子はそう言うと、フィルムを玄関に置き泣きながら出ていった。

松浦の遺体を見つめ、彼の優しかったことだけを思い起こす亮司。
亮司は松浦の遺体に彼の愛用するサングラスをかけた。

松浦の携帯に公衆電話から電話しようとする雪穂。
そこへ亮司が現れ、彼女にフィルムケースを見せた。
「どうしたの?これ。」
「落ちてた。」
「落ちてたって!」
「これでもう、本当に全部終りだよな。
 俺も雪穂も、何も縛られない。」
雪穂は亮司の上着が血で汚れているのに気付く。
「何でそんなことしたのよ!
 何で!?何で!?」
「ダニみたいなやつだったんだよ。
 これで良かったんだよ。
 パチモンだったんだよ。
 だからこれで良かったんだよ。
 みんながいなくなればいいって思ってたんだよ。
 だからこれで良かったんだよ。
 だから俺は、殺す、」
雪穂は自分のバックから花鋏を取り出して亮司の頬に近づける。
「やろうと思ってた。やっちゃうんだもんな。
 私だって、あんな男死ねばいいって思ってた。
 だから、やったのは、あたしだよ。」
雪穂はそう言い涙をこぼしながら微笑んだ。
「ねえ亮。考えたんだけどさ、私だって、偽造は出来ないけど、
 金くらい、いくらでもふんだくってこれると思うんだよ。
 強姦は出来ないけど、亮が好きな女の男、寝取るくらいは出来ると思うんだよ。
 私、わりと頼りになると思うんだけど。
 どうかな?」亮司を抱きしめそう言う雪穂。
「お返しにさ、亮も一度、太陽の下に戻してあげるからさ。
 そういうのは、どうかな?」
亮司の瞳から涙がこぼれる。そして二人はもう一度抱きしめあった。

「あなたは俺の太陽だった。
 白夜に浮かぶ太陽だった。
 俺の・・・たった一つの救いだった。」

号泣する亮司に雪穂が言う。
「大丈夫だよ。亮・・・。」

亮司の家のポストにメモと小田原行きのチケットが入っていた。
『今度は昼間を歩こう 友』

「凶器は、現場にあった包丁だと思われますが、
 まだ発見されていません。
 犯人は、松浦。逃走中です。
 私が、こんな目に合わせてしまったんです。」
笹垣が古賀の妻にそう言う。
「古賀は・・・笹垣さんを慕っていました。
 固い人で、捜査の話なんか、家でしなかったから、
 詳しいことは知りませんけど・・・
 笹垣さんを見ると、父という言葉が浮かぶんだって。
 警察官としての、自分の親は、笹垣さんなんだって。
 その背中を見て育ったんだって言ってました。
 古賀の死は、空しいものじゃなかったと思います。
 決して空しいものにしないで下さい・・・。」

「すまんのう、古賀・・・。
 すまんのう・・・すまんのう・・・古賀・・・。」
彼が好きだった七味をカップラーメンに山のようにかけ
号泣する笹垣・・・。

『苦悩の旧里は捨て難く、
 浄土は恋しからず候
 浄土は恋しからず候』

「元に戻ったって言ってました。友達。」
雪穂は図書館で谷口真文に報告する。
「そうなの!?そっかぁ!」
「あの話したら、そうだよねって。
 傷つけた分、これからは大事にするって言ってました!」
「そう!あんな話が!」
「すごく嬉しそうですね!」
「気になってたからさ。」
「いろいろありがとうございました。
 ・・・また来ます。」
「あ・・・うん。」

唐沢家。
庭の土をいじりながら、雪穂はふと空を見上げる。
そして太陽に手をかざし、それを掴もうとしてみた。
雪穂の瞳から涙が一筋こぼれた。

「なぁ・・・雪穂・・・。
 何もかもが嘘っぱちな人生なんだから、
 もう全部嘘にしてしまおうと思ったんだ。
 全てのカードが裏返れば、きっと新しい物語が始まる。」

亮司は友彦に電話をして言う。
「今から俺の言うとおりにしろ。」
「桐原、お前・・・」

友彦が事務所に行くと、家具などは全て引き払われ、鍵だけが置いてあった。
そこへ笹垣ら刑事がやってくる。
「松浦勇はどこにおんのや!?」
「言われて、鍵を取りに来たんです。」友彦が答える。
「もう一人ここにおったんやろう!?」
「亮って、人のことですか?」
「おったんやな・・・。」
笹垣が友彦の頬を叩く。

雪穂に食事に行こうと誘う副部長。
雪穂は優しく微笑み答える。
「どこに連れて行ってくれるんですか?」

「俺たちは・・・もうすぐ20歳だった。」