『罪と罰』

1999年春
庭の花に水をやりながら、亮司(山田孝之)との別れを思い起こす
雪穂(綾瀬はるか)。

「何かあったらそこに連絡して。」亮司がメモを渡す。
「何かないとダメなの?」
「他人でいた方がいいことに、代わりはないでしょう?」
「そうだね・・・。」
「学校始まる前に郵便届くから。」
そう言い亮司は自分の前から立ち去った。

そのとき、郵便物が届く。

桐原家の墓の前に立つ笹垣潤三(武田鉄矢)。
墓石に刻まれた亮司の名前を険しい表情で見つめていた。
「亮司・・・わしゃ騙されんぞ・・・」

亮司の待つ喫茶店に友彦(小出恵介)がやって来る。
「何緊張してるんだよ。」亮司が友彦に笑いながら語りかける。
「俺が何をしたか知ってるんだろ?
 警察も花岡ヨウコのダンナも、お前の血液型聞いたら興味失くさなかった?」
「そう!それが不思議だったんだよ。」と友彦。
「お前B型だったよな?
 花岡ヨウコの体内には、AB型の男性の痕跡が残されていたんだよ。」
「AB!?あり得ねーよ。・・・!!」
「あり得ねーよな。たった一つの可能性を除いては。」
「お前まさか・・・え・・・死体!?」
亮司が小さく微笑む。
「俺さ・・・一生お前の為なら何でもするよ。」
「ま、当然だな。」

タバコをふかしながら微笑む亮司は、どこか渡部さんが演じる松浦に似て、
とても不気味なものでした。

何でもする、と言った友彦を、西口奈美江(奥貫薫)の勤める銀行に連れて行く亮司。
亮司に言われたとおり奈美江を呼び出し、買春目的で集まった部屋に落とした
名刺を見せ微笑む友彦。

歩道のベンチに友彦と座る奈美江は、携帯電話で亮司から、
客のデータを横流しするよう脅迫される。
「でも・・・それって犯罪よね。」
「落ちてるもの拾うのと置き引きとどこが違うと思う?
 金の入ったカバンぼんやり置いてくヤツがバカなんじゃないの?
 隙を見せたヤツが負けなんだって、そう思ったことないの?」
奈美江の表情が変わる。

その後、亮司は友彦に彼名義で賃貸マンションを借りるよう命令する。
学生だし親に保証人になってもらわないと、とごねる友彦に、
「お前のせいで死んじゃった花岡さんのダンナに言ったら・・・」
この言葉に友彦は逆らうことが出来ない。

雪穂が受け取った郵便物、それは大都銀行『山本光代』名義の通帳、
そして一枚のメモ。

『これはとある女性から買い取ったものです。
 俺の稼いだ金はここに振り込みます。
 振り込まれる限り、俺は元気に
 やっているということです。
 余計な心配はせず
 楽しい大学生活を』

友彦に借りさせたビルに引っ越す亮司。
そのビルを選んだのは、雪穂の通う清華女子学園短期大学の通り道に
あったからだ。
その窓から、亮司は雪穂を見守っていた。

「1999年3月5日、この世からいなくなったことになった俺は、
 必要な場合い、園村友彦の名前を借りることにした。
 こうしておけば、何か起こったときに残るのは、
 園村の痕跡ばかりだろう。
 雪穂は何事もなかったように、清華女子短期大学に入学し・・・
 なぜか今時、社交ダンスを始めた。」

ソシアルダンス部の勧誘をする女性の腕時計、胸元のネックレスを
見つめたあと、雪穂はブースに入っていく。
この女性は部長のようです。

そんな雪穂を見つめる『永明大学フィギュア研究会』の看板を持つ
ウルトラマン。
「入りたいんですけど。」女学生が声をかける。
「3分、経ちましたので・・・」
そう言い背を向けるウルトラマン。

「何はともあれ・・・
 雪穂の毎日が平和なら、それで良かったんだ。」

ウルトラマンは雪穂の方を何度か振り返りながら、静かにその場を立ち去った。

亮司はこんなことまでして雪穂の傍にいたんですね。
ウルトラマンの背中が寂しく見えました。

笹垣は亮司の死を全く信じておらず、生い立ち書きを綴りながら
「もうワシしかおらんやんけ・・・
 あいつらの横っ面引っ叩いてやれんのは・・・」と呟く。
「父親を失くした、二人ですね。」
部下に言われ睨むように見る笹垣。
「いずれの行も及びがたき身なれば
 地獄は一定棲ぞかし・・・」(『歎異抄』)

亮司は今度は奈美江、友彦と共謀し、偽者のカードで銀行からデータを
盗み出そうと考えていた。
大量の真っ白なカードを不思議がる松浦。
「松浦さん見習ってるんだけど。」
そう言い彼が愛用するReyBanのサングラスを差す。
「俺もパチモン作ろうと思ってさ。」

「そして、月日は穏やかに流れていった。
 お互いの電話を鳴らす必要もないほどに・・・。」

=1999年秋=

友達に囲まれ通学する雪穂の幸せそうな姿を見つめる亮司。

「なあ、雪穂。
 笑われるかもしれないけど、俺信じてたんだ。
 俺たちは永遠なんだって・・・。」

ソシアルダンス部の壁に書かれた沢山の落書きの中、
下のほうに小さく書かれた文字を見つめて微笑む雪穂。

『いざというときに
 ダンスのひとつでもできるヤツが
 生き残っていく K.S』

「それが黒い絆でも、黒いからこそ切れることはないと
 思っていた。」

「あんまり殺風景だから・・・」
奈美江が亮司の部屋に観葉植物を飾る。

「だけど・・・ある日突然・・・
 その絆は、脆さと醜さをさらけ出しはじめたんだ。
 本物の太陽の前に・・・」

『風と共に去りぬ』を読む雪穂は、英語版『風と共に去りぬ』を読む人の
姿に気付き・・・。
クラブのOBで篠塚製薬の御曹司・篠塚一成(柏原崇)だった。

雪穂の愛読書を原文で読む篠塚。
その容姿。家柄。
彼が、本物の太陽なのですね・・・。
その頃亮司は無精ひげを生やし、暗い部屋の中、『風と共に去りぬ』を
読んでいました・・・。

防犯カメラを逃れながら、女装した友彦は真っ白なキャッシュカード使い
金を引き出すことに成功する。
「じゃ、次行きますか。」車で待っていた亮司が言う。
「え?打ち上げじゃないの?」
「こんなの客に騒がれ始めたら終りだろ。
 短期決戦だよ。」

ソシアルダンス部の部長に宣伝ポスターを作って見せる
江利子(大塚ちひろ)。
「うちの部って別にマネージャー必要ないんだけど。
 あんたも踊ったら?」部長が言う。
「私車でも酔うんですよ。
 あんなに回ったら絶対死にます!」と江利子。
「そんな引っ込み思案じゃいつまでたっても彼氏なんか出来ないよ。」

そこへ榎本がやって来る。
「一成!」
「おう、カナエ。」
「篠塚さん!」部員たちが駆け寄る。
江利子は自分をマネージャーと自己紹介。
部員の高宮と踊っていた雪穂は、その人から彼の名前を教えられ、
壁の落書きが篠塚のものだと気付く。
雪穂に気付き会釈する篠塚。
カナエが怒ったように篠塚を連れ出す。

篠塚は永明大学学長の孫娘・倉橋カナエといずれは結婚するのでは、と
部員達が飲み会の席で噂する。
「部長ってそうなんですか!?ヤンキーなのかと思ってた。」と江利子。
「本当のお嬢さんだから、そんな振りしなくていいのよ。」と雪穂。
「唐沢って、どんな男がタイプなんだ?」高宮が聞く。
「レッドバトラー・・・。」
「それってどんな男なの?ジャンル的に言うと。」
「そこのTSUTAYAにありますよ。」
雪穂は微笑みそう答えた。

「ほんとは二人出来てるんだろ!?
 だって奈美江さ、初めて会った時とは別人みたいに明るくなったもん。」
泥酔した友彦が亮司・奈美江に言う。
「お前奈美江さんに惚れてるんだろ?」
「違う!
 俺はさ、俺は結局、何も知らない・・・。
 だってお前、全然、自分のこと何もしゃべってくれないじゃん!
 そういうのが、俺、寂しい。」
そう言いトイレに駆け込む友彦。

「自分のやってること、犯罪ってわかってるのかな。」
「だからよ。
 人に言えないことばかりじゃない。
 だから、亮を信頼したいし、されたいの。」
「大学のサークルじゃないんだけどな。」
「亮は、彼女いないの?」静かな微笑みを浮かべ奈美江が聞く。
「・・・いないよ、そんなの。」
「ふーん。じゃあ、好きなタイプは?」
「スカーレット・オハラ。」
「亮ってMだったんだ。」

「ふと、雪穂の声が聞きたくなった。
 公衆電話からなら、足がつく心配はさほどないけど、
 それでも履歴は残る。
 笹垣の目は節穴じゃないだろうし・・・」

雪穂の卒業アルバムを見つめる笹垣。

『篠塚制約 経常利益68%増』と書かれた新聞記事を読む雪穂。

部屋の窓から公衆電話を見つめる亮司。

「横に誰かがいれば、雪穂を支えでも
 又嘘をつかなくてはいけない。
 俺は出来るだけ、雪穂に楽をさせてあげたかった。」

「えろう熱心に読んでるんやな。」
突然礼子(八千草薫)に声をかけられ驚く雪穂。
篠塚がダンス部のOBだと説明する。
「へぇー。カッコいいの?」
「全然!」そう言い雪穂は逃げるように席を立つ。
「へぇー。」礼子が微笑んだ。

「こんな些細な寂しさに、負けてはいけないと思っていたんだ。」
亮司は銀のハサミを握り締め・・・

亮司が送ってきた通帳を記帳する雪穂。
10月9日 5万円
10月19日3万円
10月29日5万円
11月2日3万円
11月7日3万円
11月15日100万円
11月16日100万円
合計3,210,003円にもなっていた。

「何やっているんだろう・・・」
不安を覚える雪穂・・・。

そんな時、笹垣が礼子を訪ねてきた…。
「私もあれから、あの子がどないになったのか気になっていまして。
 あの・・・こちらさんとは、どんなご縁で?」
「私があの子のいた施設で、子供たちのお花教室をやっていて、それで。
 あの子ね、花の名前をどんどんどんどん覚えて、
 一生懸命、話しかけてきますのや。
 それはもう、わかりますのや。
 私を貰うてくれ、貰うてくれって言うてますのが・・・。
 また偉い逞しい子やな思うて。
 私は、そういう子が好きなんですわ。」
「すみません。
 お嬢さんには私が来たことは言わんといて下さい。
 せっかくの幸せに、水差したくないんですわ。」
「わかりました。」
「年頃やから、ぎょうさんボーイフレンドも出来たりなんかしてんのと
 ちゃいますか?」
「さあ、どうですやろ。」
微笑みあう二人。だが次の瞬間笹垣の顔から笑みがさっと引いていく。

ソーシャルダンス部の壁の落書きを見つめ、爪を噛む雪穂。


そこへ江利子がやってきた。
「OBなのに、部活に顔を出す人ってどう思う?
 カッコいいことしようとして、逆にカッコ悪くなっちゃってる感じしない?」
雪穂の言葉に「なるほどねー!」と江利子が答えた。

松浦に『上納金』と言い札束を渡す亮司。
「うわー。亮ちゃんも立派になったねー。」
「立派って・・・。」

そのとき、インターフォンが鳴る。
松浦に相手を確認するよう念を押す亮司。
「換気扇の点検でーす。」
松浦が少しも疑わずに戸を開ける。
だがそこにいたのは、手下を連れてやって来た榎本(的場浩司)だった。
押しかけて来た。
「西口奈美江、どこだ?」
「あの、そっち向いて吸ってもらえますか?」
榎本の持つタバコからパソコンを庇おうと手を出す亮司。
榎本は亮司の手を掴みタバコを掌に押し付ける。
「そりゃあ悪かったな、気がつかなくて。
 おぅ、我慢強いね、お兄さん。」
手下達が、来ていないようだと榎本に告げる。
「奈美江の居場所わかったらここに連絡して。」
「西口さん嫌がってると思いますけど。」(よく聞き取れず)
「兄さんお利口さんそうだからな。
 どうすりゃ得するかぐらいわかんだろ!
 何ならそのパソコンで計算してみたらどうだ?」
そう言い榎本は部屋を出て行った。

別室に逃げ込んでいた松浦が出てきて言う。
「どうすんだよ。あんなのに睨まれたらさ。ん?」
そこへ奈美江から電話が入る。

テレビニュースが大都銀行昭和支店・真壁幹夫が殺されたと伝える。

ニュースを見ていた友彦が亮司に呼び出される。
駆けつけると、ホテルの部屋に奈美江が匿われていた。
「榎本ってヤクザに貢いでたんだってさ。
 真壁って銀行員が殺されたニュース見た?
 奈美江さんはその榎本ってヤツの口座に不正送金してたんだ。
 それに気付いたのが真壁って上司で、
 真壁はまさか奈美江さんがやっているとは思わず、
 奈美江さんに相談を持ちかけた。
 それが昨日。
 そのことを榎本に報告したあと、真壁は殺された。
 それが今朝。
 明日は間違いなく奈美江さんだろう。」
亮司が説明する。
「え!?だって奈美江さんはヤツラの仲間でしょう!?」と友彦。
「でも・・・生き証人とも言えるわよね。」
「奈美江さん2千万持ってるんだって。」
「いつかこんな日が来るんじゃないかと思って、
 自分用の口座5つ作って・・・」
「不正送金!?」
「榎本にしてみれば金は欲しいし、捕まって吐かれるのは面倒だって
 とこだろう。
 ということなんで、お前2、3日、ここにいてくれ。」
「二人っきり?」
「食い物とか色々買いに行けって言ってんの。
 奈美江さん外に出られないだろ?」
「お前は?」
「警察と榎本たちに追われるとしたら相当だろう。
 当分隠れられるところを探したり、
 偽造パスポート作ったり、忙しい。」