日语文学作品赏析《自分の變態心理的經驗》
一度はこれも十七の歳に重症の腸チブスにかかつて、赤坂の今は順天堂分院になつてゐる共愛病院と云ふのにはひつて、この時も九死に一生を得たのであつたが、同じやうな高熱來の最中に、私の寢てゐる蒲團の上に、歌舞伎芝居に出て來る
一度は、これは自分自身の肉體に對する變な錯覺なのだが、二十三四の時分ひどい神經衰弱に犯された時の事だ。夜床に就いて、電氣を消して視界が暗くなると、どうしたはづみかにいきなりその錯覺が起つてくる。その前には兩眉の間の眉間のへんが妙にむづむづしてくるのが極りだつたが、何しろ自分の體がいきなり涯知らずくうつと延び出すやうな感じがし出す。涯知らなさはまるで自分の體が地の涯から涯へつながる電線にでもなつたやうな感じなのだ。[#「。」は底本ではなし]そして、次の刹那にはそれがまた逆に極微少にちぢまる。まるで自分の體が針にでもなつたやうに、豆粒にでもなつたやうにちぢまるのだ。而もそのマキシマム[#「マキシマム」は底本では「アキシアム」]になる錯覺とミニマム[#「ミニマム」は底本では「ミニアム」]になる錯覺とが入れ代り立ち代り交錯する。初めはまた來たなと思つて我慢してゐるのだが、しまひにはとても恐ろしくなつて我慢にも我慢出來なくなる。そして手をのばして電燈のスヰツチをひねつて、室内がぱつと明るくなると同じ瞬間に、それは忽ち消えてしまつて自分の常態に返る。が、その錯覺の事を思ふと、二三ヶ月の間、夜が來て床にはひるのがこはくてこはくて弱らされた。殆ど滿足に睡眠をとる事が出來なかつた。二階の縁などに立つて庭を見降すと、體を下に投げ出したくなるやうな衝動に襲はれて、はつとうしろにしざつたり、部屋の本箱の抽出にしまつてある五連發の短銃の事をひよいと、思ひ出すとそれを夢中で取り出してどかんと自分を打つてしまひ[#底本では「ひ」が横向き]さうな氣がして恐ろしくてたまらなかつたやうな經驗もやつぱりその當時の事だつた。それ等は變態心理學で云ふ恐怖觀念の實例に違ひない。
これは幻覺とか錯覺とか云ふものと違つて、人間の一種の性癖に過ぎまいが、私ぐらゐ先づきちん好きな男はさうないかと思ふ。部屋にゐても本棚の本が曲つてゐたり、掛物が横になつてゐたり、物の置き方が宙ぶらりんになつてゐたり、障子が破れてゐたりほこりが落ちてゐたりするととても氣になつて仕方がないのである。で、私の部屋を訪れた人は御存じの事だらうがとにかくそれはいつも實にきちんと整頓してゐる。窮屈なくらゐにすべての物が整然としてゐる。實際、私は整頓とか、整理とか、掃除とか、片附け事とか云ふ事には殆ど興奮さへ覺へて骨身を惜しまない人間で、普通の詞で云へば、[#「、」は底本ではなし]綺麗好きとか、潔癖とか云ふのらしいが、どうも聊か病的で、下らぬ暇潰しになつて仕方がない。處で、いつだつたか變態心理に關する本を讀んでゐると、さう云ふのも潔癖症と云ふ一種の精神病なのださうだ。――妖怪とは甚だ縁遠くなつたが、以上のやうなのもそのまたいとこぐらゐには思はれさうなので……。
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