庭のすぐ向ふが墓場だったので、開放れた六畳の間をぐるぐる廻ってゐると、墓地でダンスしてゐるやうだった。彼はその中年の肥った女優にリードされながら、墓の上に煙る柳の梢が眼に触れた。
 ある夜その女優の楽屋を訪れると、女ばかりが肌ぬぎになって鏡台に対ってゐる生ぐさい光景に少し圧倒されてゐると、ドロドロドロと太鼓が鳴った。

 彼はある女と媾曳するのに墓地を選んだ。秋のことで蟋蟀が啼いて気が滅入った。こんな場所で逢ふのはもう厭、とその女は来る度に始めさう云った。不思議なことだが別れる時には、また今度はここで逢ひませうと約束するのだった。
 ある女は別の男と心中してしまった。彼は好んで監獄のほとりを一人でとぼとぼ散歩した。高い厳しい壁に添って歩くと、生きてゐることが意識されると云ふのだらうか、彼は自分の意識に舌を出して笑った。立派な囚人用の自動車がよくそこを通った。

 気がついてみると、彼の下宿のすぐ側は火葬場であった。風の烈しい日には骨を焼く臭ひが感じられるやうだった。しかしそれがどうしたと云ふのだらう。
 しかし、彼は移動したくなった。監獄か魔窟の附近へ住みたいと思った。

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