妻の母方の祖父は、土屋彦六といつて、明治のころ、靜岡で牧師をしてゐた。なんでもその祖先は義士討入で有名な土屋主税だといふ話を、私は妻の母から聞いたことがある。このお正月に、ラヂオで、吉右衞門の「松浦の太鼓」をききながら、この松浦侯といふのはおまへの祖先の土屋主税をモデルにしたんだよ、と言つても、どうも妻には一向ぴつたり來ないらしかつた。それもその筈だ。なにしろ、父の勤めの都合で、香港や廣東で幼時をすごし、それからぽんと東京のミッションスクールの寄宿舍に入れられてしまつてゐたのだから……
 もう足かけ九年、こんな信州の山のなかにこもつて、何ひとつ厭な顏をせず、寢たつきりの、めんだうな私のおつきあひをして貰つてゐるのは、なんとしてもありがたいことだ。

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