どんな育児の本も、必ずとり落しなく触れている一つのことがあります。それは幼い子供たちが次第次第に智慧づいて来たとき、心の目醒めを告げる暁の声としてきっと、「それは、なあぜ?」「どうしてそうなの?」と熱心に答えを求める。これこそ人間の叡智の芽であるから、決しておろそかに扱ってはならないということです。幼児について云われているこのことは、どうして人間の生涯のあらゆる時期により、深い成長発展のモメントとしてとりあげられて悪いでしょう。「何故?」という二語、「どうして?」という最初の問いとそれへの答えの努力によって、人類は火をつくり、海と陸との境を極め、その歴史を創って来ました。常に新たな感銘をもってこの人生に何故? と問いかけて行く真率溌剌さこそわれらのものでありたいと思います。
〔一九三九年四月〕

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