次の文章を読んで、後の問いに答えなさい。

フランスではしばしば、日本人の顔を評して「ヴィザージュ・エルメティック」・と言う。「内心が読みとれない( ① )な顔」という意味だ。表情が豊かであれば内心が読み取れるかというと、必ずしもそうではないが、言語(注1)メッセージの内容と顔の表情は密接な関わりを持つと考えている人々にとって、無表情な日本人は不可解な存在だ。それに加えて、パリを訪れる日本人団体客は、挨拶(あいさつ)をしない、お礼を言わない、笑顔を見せないと評判で、「日本人は礼節(れいせつ)を重んじる人々だと聞いていたが……」と、驚きと不審(ふしん)の目を向けられている。

東京人が、他人と話をせず、笑顔を見せず、視線を向けようともしなくなった今、つまり、②周りとのコミュニケーションが途絶(とだ)えた今になって、その重要性が叫ばれ始めている。そして現代人は話し方教室だの(注2)自己啓発セミナーだのに通う。かつてはだれもが当たり前のように周囲の人々が話しているのを聞き、多種多様な相手と言葉を交(か)わすことで、いつのまにか覚え、 ( ③ )さほど苦痛もなく身につけたコミュニケーションの(注3)スキルを、今やお金を出して、苦労して習う時代なのだ。  

「電話のかけ方一つ知らない」と若者を非難する大人がいる。④しかし考えてみれば、携帯電話が普及したことで、相手の家に電話をかける時間を気にしたり、取り次いでくれる家族に対する言葉づかいに気を配ったりする必要がなくなったのだ。必要も機会もないとしたら、人はものを覚えない。  

時代は後戻りできない。利便性を求めること自体は非難すべきものではないが、⑤利便性のみを追求した(注4)ツケが、言語コミュニケーションの面でも、いま回ってきている。漢字の読み書きができなくなったというのは、「ゆとり教育」よりずっと以前に学校教育を受けた世代にも言えることだ。テレビを見る時間はあっても、読書をする時間は作れなくなった。加えて、筆記用具がペンからワープロやパソコンに変わった。その結果、漢字が書けなくなっただけでなく、私たちの(注5)ボキャブラリーから漢字の語葉(ごい)が激減した。

各種通信手段の発達によって、対面コミュニケーションの機会が減ったことで、生身(なまみ)の人間との言葉のやりとりが下手になり、相手の目を見ることができない人が現れるのもまた当然の帰結だ。コミュニケーション能力を取り戻すには、自ら機会を作り出すしかないだろう。エレベーターに乗り合わせた人と挨拶を交わす、相手の目を見て話す、镜の前で笑顔を作る練習をする、一日に一度は「(注6)赤の他人」と言葉を交わしてみるといったことを、一人一人が(注7)心がけていくしかない。     

(野口恵子 「かなり気がかりな日本語」(集英社)による)

(注1)メッセージ:伝言。相手に伝えたいこと。  
(注2)自己啓発セミナー:自己啓発のための講習会。
(注3)スキル:技術、技能など練習して身につけた能力。  
(注4)ツケが回ってくる:以前の無理や悪事の報いがめぐってくる。因果応報。  
(注5)ボキャブラリー:語彙。  
(注6)赤の他人:全然知らない他人。  
(注7)心がける:常に心にとどめる。常に注意して努力する。

問1 ( ① )に入る適当な語はどれか。
1 無表情             2 不可解  
3 不審              4 奇妙

問2 ②「周りとのコミュニケーションが途絶(とだ)えた今になって」とあるが、筆者は何が原因で「周りとのコミュニケーションが途絶(とだ)えた」と考えているか。
1 携帯電話が普及したこと。  
2 筆記用具がペンからワープロやパソコンに変わったこと。  
3 各種通信手段の発達によって、対面コミュニケーションの機会が減ったこと。  
4 学校教育の中でコミュニケーションの仕方を教えなくなったこと。

問3 ( ③ )に入る適当な語はどれか。 
1 しかし             2 しかも  
3 それで             4 もっとも

問4 ④「しかし考えてみれば」とあるが、何を考えるのか。
1 どうして話し方教室だの自己啓発セミナーだのに通うのか。  
2 どうして若者は顔を合わせても挨拶しないのか。  
3 いつごろから日本で携帯電話が普及しはじめたか。  
4 どうして若者は電話のかけ方を知らないのか。

問5 ⑤「利便性のみを追求したツケが、言語コミュニケーションの面でも、いま回ってきている」とあるが、「利便性のみを追求したツケ」と考えられないのはどれか。 
1 10年以上も学校で英語を勉強しているのに、会話ができない人が多い。
2 漢字は読めても書けないという人が増えてきた。      
3 相手の目を見て話すことができない若者が多い。              
4 現代人は生身の人間との言葉のやりとりが下手になった。

問6 筆者の考えと合っているのはどれか。  
1 学校でも生身の人と人の会話の機会を増やしたり、コミュニケーション能力を育てるための授業をするべきだ。
2 話し方教室や自己啓発セミナーに通っても、コミュニケーション能力がつくわけではないから、自分で生身の人との会話の機会を増やすようにした方がいい。  
3 コミュニケーション能力を取り戻すには、私たち一人一人が対面コミュニケーションの機会を増やす努力をすることだ。             
4 コミュニケーション能力を育てるには、できるだけ携帯電話や電子メールなどの通信手段を使わない方がいい。

正解:132413
解説:
問1:後ろに続く文が具体的な説明になっているので、そこから読みとる。
問2:最後の段落で述べられている。全体を一度読んで、要旨や文章の流れを掴んでから各問題をするようにしてほしい。
問3:前の文と後ろの文はどのようにつながっているか。接続詞の問題は、顺接?逆接?並立?のように考えていくとよい。問2は並立·添加の語がいいとわかる。
問4:この問題も後ろに続く文が問題を解く「键」となる。後ろで理由が説明されているが、何の説明か。
問5:「ツケが回ってくる」の意味がわからないと説けない。また、「~と考えられないのはどれか」となっていることに注意。 
問6:4は明らかな間違いだが、1、2は内容の半分は正しいが、半分は間違いという内容となっている。注意力が大切。

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